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STHIRA 安定して SUKHAM 楽しく

すすすっ、すすすすっ〜。キッレッキレに研いだ鑿や鉋はそれだけで気持ちがいい。

手にダイレクトに感覚が伝わり、木肌と刃が無理なく合わさっていくと、あとは流れるように表面が切れていく。

するとホワワンっと木の香りを鼻腔が拾い、つるっとした表面にうっすら木油が光を反射する。あ〜美しい。

木は内面に性格が隠れている。目の方向、節のつき方、身の割合、輪の密度、山のどの場所で、どの方角で、どう成長してきたのか想像を膨らませ、すすすっ、すすすすっ〜っと少しづつくるくる剥いでいく。

あ〜〜れ〜〜〜〜〜(笑)

しかしクセっ気が強い木はなかなか簡単にはいかない。昔ながらの大工さんはクセを読み、手技を使い、カラダヒトツ、最小限の手道具で上手にクセ物達と付き合ってたと聞く。

電動工具やプレカットが普及した現代は、この"クセ"というものを嫌う。扱ってしまうと生産性が落ちてしまうんだろう。

僕が使う材は、ほとんどが杉。香りよく、クセが少なく、木目もいい。

沖縄では林業がないので、伐採の現場にたちあうことはなくほとんどが加工された2次、3次の材木だ。

僕はずっと杉はまっすぐ伸びるものだ、と思っていた。実際は、林業という職能の方々が日々丁寧に杉を育てているのだと後から知る。木は生育過程で他の生物と同じように周辺環境に左右されていき、天候だったり害虫だったり生き延びるのがまず大前提だ。

1本の木が種から育つのには50年ほど。林業従事者はこの長い年げつを、間引きしたり(木の間に余白を作る)、枝打ちしたり(幹の成長を制御する)木がすくすく育つよう手入れを入れていくのだ。

そうして手入れした木は、真っ直ぐ美しく、クセの少ない材となる。

そう、クセのない木。それが良い木、美しい木だと思い込んでいた。ほんとにそうだろうか?? もちろん大工にとってクセの少ない木は加工がしやすく、納まりがよく、経年変化が少なく、メリットしかない。

手入れをしない杉はどうなるのか?? 僕は杉の南限、屋久島へ行った。屋久杉といえば世界遺産、1,000年を超える杉が現存する神秘の森。そこで見たのは、まるで踊り歌うように枝をくねらせ、存在を、生き様を主張するかのような激しい杉のカタチがあった。なんだこれは???

もしかしたらこれが、杉の本性なのか、、、

見てみたい!!興味がくすぐられる。木の性格、長い年げつをかけてどんな姿をしているんだろう。まぁ〜やっかいなことになってるだろう(笑)

この時、僕の木に対する価値観がパッと切り替わった。木は立っているのではなく、生えている。僕たちヒトと同じく光を浴び、水を飲み、呼吸をしている。かれらはありのままにこの地球に生きてることを表現しているのだ。

1本1本の木々に向き合うには、現代の生産方法だと難しい。木の性格に耳を傾け、声を聴くにはやっぱり手道具が一番。

木に向き合うカラダの位置、力の抜き方、入れ方、道具との距離、重心、ヒトツヒトツの呼吸と動きが、道具を伝って無理なく気持ちよく木との関係を整えていく。と、すすすっといく。

それは、ヨガスートラにある言葉のようなことかもしれない。STHIRA SUKHAM ASANAM(安定して楽しく座ること) 生きとし生けるものの声を聞き、硬さや緊張、アンバランスな状態を互いに解いていき、気持ちぃ関係を保とうね。と、理解している。

気持ちぃ。ここが一番のポイントだと思う。

そしてほとんどの大工道具は木で作られている。道具を作れるってのがまたいいよね。

カラダヒトツと最小限のツール

これだから大工は楽しい。


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