■ 日本人にとって馴染みの浅い句読点 英文契約書(やちょっと賢そうな英文)でさも当然のように登場するセミコロン(;) やコロン(:) 。 日本人的にはあまり馴染みがないけど、せっかくなら理解しておきたいこれらの句読点(punctuation)について、2記事にわたって解説いたします。
本noteでは、第2回として、コロン(:) を取り扱います。 第1回とセットで読めば、謎記号でしかなかったセミコロンとコロンが少し生き生きして見えるかもしれません。
※ 第1回のセミコロン編はこちら ↓
■ 英文法ルール まずは、コロンの英文法上の一般的なルールを確認してみましょう。
コロンの基本イメージ は「大まかな情報:細かい情報 」です。このイメージから、コロンの様々な用法が派生していきます。
コロンには下図のように多くの用法がありますが、本noteでは、便宜上、①補足説明、②細目の列挙と、③その他に分類します。
- ①説明を補足する ①の補足説明は、コロン前の文の内容をコロン後に補足する パターンです。 この場合のコロンは、文脈に応じて、「なぜなら」(理由) や、「すなわち」(詳述・要約) の役割を果たします。
We are not satisfied with his draft: It has too many typos. 私達は彼のドラフトに満足していない。あまりに多くの誤字があったから。I cannot believe her story: Many lawyers could be seen in the office at midnight on Sunday. 彼女の話は信じられない。日曜日の真夜中にたくさんの弁護士がオフィスにいたなんていう話は。This is what you should do: Stop watching YouTube videos right now. 君がすべきことはこうだ。今すぐYouTube動画を見るのをやめなさい。
1つ目の文では、コロン前で「ドラフトへの不満足」という評価が示され、コロン後で、その評価の理由が「多くの誤字の存在」にあることが補足されています。 つまり、この文のコロンは、「なぜなら」(理由)の補足説明のためのコロンであるといえます。
これに対して、2つ目の文ではコロン前に出てきた「her story」の内容が、3つ目の文ではコロン前の「what you should do」の内容が、それぞれコロン後に補足されています。 つまり、2つ目と3つ目の文は、「すなわち」(詳述・要約)の補足説明のためのコロンであるといえます。
■ コロン後の文の先頭は大文字?小文字? ①の補足説明におけるコロン後の文の先頭文字の記載方法については、以下の2つの考え方が存在するようです。(1) 大文字じゃないとNG (2) 大文字でも小文字でもOK これ以外にもライティングのルールは媒体等によって異なる場合がありますので、自分のライティングに適用されるルールがどのようなものか確認しておくと良いかもしれません。 ちなみに、コロン後が文ではない場合 や2つの文をつなぐのがセミコロン(;)の場合 (第1回 参照)には、その後の先頭文字は小文字です。
- ②細目を列挙する ②の細目の列挙は、コロン前に登場した概念の細目をコロン後に列挙する パターンです。 この場合、コロン前の文では、以下のように、数字 の表現、follow を含む表現、below を含む表現等が先行する例が多く見られます。
I have three pets: two dogs, one cat, and one rabbit. 私は3匹のペットを飼っている。2匹の犬、1匹の猫、そして1匹のうさぎだ。The point is as follows: A, B, and C. ポイントは以下のとおりだ。A、B、そしてC。We will discuss the following subject: A, B, and C. 私たちは以下の議題について議論する予定だ。A、B、そしてC。The problems are listed below: A, B, and C. 問題は以下のとおりだ。A、B、そしてC。
1つ目の文は数字 の表現(three pets)が、2つ目及び3つ目の文はfollow を含む表現(as follows, the following subject)が、4つ目の文はbelow を含む表現(listed below)がそれぞれ先行し、コロン後でそれらの細目を列挙する、という形になっています。
■ コロン前が不完全な文になる用法 以下の文は、コロンによって文が分断され、コロンの前が不完全な文となっています。The rule applies to: A, B, and C. このようなパターンは実際には頻繁に見られますが、非推奨とされている用法です。そのため、この考え方に従えば、上記は以下のように書き換えることが望ましいといえます。The rule applies to three situations: A, B, and C.
- ③その他 前述した2つの用法以外にも、コロンは様々な場面で使われています。
【引用】This report says: " . . ." (このレポートは「~」と述べている。)【話者】A: May I speak B? (Bと話しがしたいのですが。) B: Speaking. (私です。)【時刻】10:00 a.m. (午前10時00分)【競技記録】2:01:39 (2時間1分39秒)【手紙の冒頭】Dear Sirs: (拝啓)【メールの件名等】To: / From: / Subject: / Date: 【語句の定義】FYI: For your information (FYI:ご参考までに)【図の説明】Figure 1: Net Sales of iPhone (図1:iPhoneの純売上高)【単位の説明】Unit: 1 million yen (単位:百万円)【比率】2:1 (2対1)
■ 英文契約書での用法 それでは、以上を踏まえて、コロンの英文契約書での用法を見ていきます。
- WITNESSETH:(頭書) 英文契約書において最初に見つかるコロンは、頭書の「WITNESSETH:」のコロンでしょう。
まず、「WITNESSETH:」のコロンは、その後に様々な記載が列挙されていくものであるため、②の細目の列挙 であるといえそうです。
ここで、列挙される細目については、レイアウト的には、このコロンの直後の各WHEREAS節とも思えます。しかし、第1回 で説明したように、THIS AGREMENTから始まる前文は元々以下のような1つのセンテンスでした。
THIS AGREEMENT, made and entered into(契約当事者), WITNESSETH that , WHEREAS,(取引の経緯を説明した節), WHEREAS,(取引の経緯を説明した節), and WHEREAS,(取引の経緯を説明した節), . . . the parties hereto agree as follows:
このように、WITNESSETHがthat以下を目的語とする動詞であることからすれば、「WITNESSETH:」のコロンは、that以下全体を、契約書によってWITNESSETHする(証する)細目と捉えて列挙 するものと考えられます。
なお、この文はV=WITNESSETHのSVO文型ですので、「WITNESSETH:」のコロン前は文として不完全な形 になっています。 そのため、このコロンは、前述した非推奨だけどよく見る用法の一例 といえそうです。
- the parties hereto agree as follows:(頭書) 既に上の図で出てきていますが、その次に見つかるコロンは「the parties hereto agree as follows:」のコロンでしょう。
こちらはとてもわかり易いfollow を含む表現が先行する②の細目の列挙 の用法です。「agree」した内容=各Articleをコロン以下で列挙しているということですね。 「WITNESSETH:」のコロンとは異なり、コロン前の文も完全な文 となっています。
これら2つのコロンを合わせると、大きい「WITNESSETH:」のコロンの中に、小さい「the parties hereto agree as follows:」のコロンが包含されていることになります。
- 各号の列挙 英文契約書の本文中で登場するコロンでは、各号を列挙する場合のコロンがポピュラーです。 この場合には、コロンはいずれも②の細目の列挙 の用法として用いられます。
その中でも最もよく見られるものが、followを含む表現(as follows, following ~)が先行するパターン です。
(Qualifications of Bond Administrators) Article 703 A Bond administrator must be a person listed as follows: (i) a bank; (ii) a trust company; and (iii) beyond what is set forth in the preceding two items, a person prescribed by Ministry of Justice Order as a person equivalent to the above. (社債管理者の資格) 第七百三条 社債管理者は、次に 掲げる者でなければならない。 一 銀行 二 信託会社 三 前二号に掲げるもののほか、これらに準ずるものとして法務省令で定める者
(Extinctive Prescription of Claims) Article 166 (1) A claim is extinguished by prescription in the following cases: (i) if the obligee does not exercise the right within five years from the time when the obligee came to know that it was exercisable; or (ii) if the obligee does not exercise the right within 10 years from the time when it became exercisable. (債権等の消滅時効) 第百六十六条 債権は、次に掲げる場合 には、時効によって消滅する。 一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。 二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。
また、belowを含む表現(listed below, set forth below)が先行するパターン もよく登場します。
(General Statutory Lien) Article 306 A person that has a claim arising from the causes set forth below has a statutory lien over the entire assets of the obligor: (i) expenses for the common benefit; (ii) an employer-employee relationship; (iii) funeral expenses; or (iv) the supply of daily necessaries. (一般の先取特権) 第三百六条 次に掲げる 原因によって生じた債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。 一 共益の費用 二 雇用関係 三 葬式の費用 四 日用品の供給
さらに、前述のように英文法的には非推奨とされる用法ですが、コロン前が不完全な文になる用法 も時折見られます。
(Requirements for Guarantor) Article 450 (1) If an obligor has the obligation to provide a guarantor, that guarantor must: (i) be a person with capacity to act; and (ii) have sufficient financial resources to pay the obligation. (保証人の要件) 第四百五十条 債務者が保証人を立てる義務を負う場合には、その保証人は、次に掲げる要件を具備する者でなければならない 。 一 行為能力者であること。 二 弁済をする資力を有すること。
ちなみに、コロン後の列挙方法については、句 で列挙+セミコロン で区切るパターン、節 で列挙+セミコロン or ピリオド で区切るパターンなどが見られます。
■ 参考文献 参考文献については、第1回の末尾をご覧ください。
なお、コロンの用法の整理は、セミコロン以上に文献によってまちまち でした。 そのため、(可能な限り最大公約数的な説明となるよう心がけましたが)本noteにおける整理はあくまでも筆者の私見 ということで予めご容赦いただければ幸いです。