カクコツ特別編|ウェブマガジン編集者に聞く「良いライター・悪いライター」
わたしが所属する中年草野球チームの遊撃手N氏。仕事はウェブマガジンの編集者です。「実際の編集者はどんな視点でライターを見ているのか?」に興味をもったわたしは、練習後の彼に話を聞かせてほしいと声をかけました。仕事の付き合いがないどころか、ふだんは仕事の話なんてしたことがないのに。はてさて、ウェブマガジンのベテラン編集者が考えるライターの仕事と評価基準とは。
在宅勤務が基本に
なってきた編集部
コジマ この店はなかなかいいね。安いし旨いし店員さんも感じがいい。ニシオギでエビス(店名)というのもシャレが利いてる。
遊撃手N氏 いいでしょ。ずいぶん前に来たことがあったので、ニシオギならここがいいかなと。僕も外で飲むのは久しぶりです。
コジマ いまはどのくらいの頻度で出社しているの?
遊撃手N氏 宣言期間中よりちょっと増えたくらい。ウチの会社、部署によるけど当分は在宅勤務を基本にするみたい。まあ僕の仕事は個人事業主みたいなもんですから、あまり関係ないっすね。
コジマ ここに来る前、近くの整体に行ってたって?
遊撃手N氏 そうなんですよ。最近、在宅用の会社支給パソコンがデスクトップからラップトップに替わって、ずっと下を向くようになったんです。それでどうも首が。なんだかんだ長時間、パソコンの前にいますからね。
コジマ 整体代は会社に請求したらいい。スタンドデスクにするとか。
遊撃手N氏 スタンドデスク? 無理無理。営業やマネジメントの人ならできるでしょうけど、編集者が立って仕事したら首・腰を壊しますね。
コジマ それはいかんな、内野の要がいなくなる。チームにとって大打撃だよ。
遊撃手N氏 そこですか。
ライター常時5~6人で
売り込みはウエルカム
コジマ ところで、Nさんの仕事はウェブマガジンの編集者ということだけど、どんなことをやっているの?
遊撃手N氏 どんなもこんなも、紙媒体の編集と同じですよ。企画を考えてライターさんやカメラマン、デザイナーさんたちと記事をつくる。
コジマ 身もふたもない言い方だなぁ。
遊撃手N氏 実直とかストレートとか言ってほしいですね。根がまじめなんですよ。
コジマ ならもっと具体的に聞こう。担当しているテーマは? いつも仕事をしているライターさんは何人ぐらいいるの?
遊撃手N氏 担当テーマは自動車とゴルフ、雑貨です。雑貨は編集部員みんなで分担している感じ。ライターさんは5~6人ですかね。
コジマ ほとんど自分の趣味の世界じゃないか! 案外少ないんだねライターさんは。
遊撃手N氏 趣味じゃなく高い専門性、少ないじゃなく少数精鋭と言ってほしいですね。ライターのわりに語彙が貧弱ですよコジマさん。
コジマ もう酔ったのか発言にトゲが出てきたよ。まあ今回は許そう。ライターさんの売り込みは多い?
遊撃手N氏 以前は多かったけど、最近は少なくなりました。でも、そういう話がきたら必ず会うようにしています。優秀なライターさんの確保は、編集者の大きな仕事のひとつですから。
コジマ お、前向きになってきた。メガハイボールのおかわりを頼みたまえ。記事のテーマは編集者が考えているんだよね?
遊撃手N氏 自分から立案するのが半分、ライターさんに「何かないかな」と相談して決めるのが半分という感じですね。
コジマ なるほど、ライターは企画者でもあるわけだ。だから(優秀かもしれない)ライターの売り込みはいつでもウエルカムなんだ。
遊撃手N氏 そういうことです。焼き鳥・焼きトンも追加していいですか?
コジマ た、頼みたまえ。
「筆力」「専門性」
「時間を守る」のどれを重視?
コジマ ライターの評価軸って、たとえば「筆力」「専門性」「時間を守る」とかあるよね。
遊撃手N氏 3つめは、締め切りを含む「早い反応」ですかね。メールやLINE即レスとはいわないまでも、「どうでしょう?」と問い合わせたら、翌日同時刻くらいには何らかの反応がほしいかな。
コジマ 3つの評価軸のうち、重視しているのは?
遊撃手N氏 どれも大事だけど…僕の場合は3つのうち2つ満たしていればOKです。そもそも3つとも満たしているライターさんは珍しいでしょう。
コジマ おお確かに。3つのうちどれをどれだけ重視するかは、担当編集者の力量や得意不得意に依存するかもしれない。Nさんはキャリアのある編集者だから2つでOKなのかも。
遊撃手N氏 程度の問題もありますよね。たとえば自動車ライターさんのなかには「あの人の原稿を見るのがツライ…」と感じる方がいました。専門性はもちろん高いのだけれど、原稿の日本語が…。
コジマ 車に試乗して評論するのは得意なんだけど書くのは苦手、みたいな。
遊撃手N氏 編集者としては、ライターさんの署名記事として露出される以上、それなりの原稿をもらわないといけないし、それなりのものにしてあげたい。でもその人は、それっぽく書こうとしてたけど日本語になっていないので、こちらも手の施しようがない。ツラかった…
コジマ 俺も原稿をほかのライターさんに依頼したり、デスク作業(原稿のチェックや修正、掲載判断など)をすることがあるので、その気持ちはよくわかる。筆力がやや弱いのであれば、専門性やレスポンスのレベルは相当高くないとなぁ。
遊撃手N氏 酒量も増えますよ。
取材で得た“素材”を
ライターなりに料理した原稿
コジマ では深酔いする前に聞こう。Nさんが考える良いライター・悪いライターとは?
遊撃手N氏 そうですねぇ。いいな、すごいなと思うライターさんは、取材で得た話以上のことを原稿にしてくる。取材とは別に、自分で調べた内容や経験で得た知見、自分の見方・考え方で取材内容を膨らませた原稿。「あの取材でこんな原稿になるか!」という驚きがあるんですよ。
コジマ なるほど、それは編集者として読むのも楽しいだろうね。逆にムムムなライターさんは?
遊撃手N氏 まさにその逆で、前に言った日本語になっていないとか締め切りを守らないという話は別として、「読ませる原稿」になっていないライターさん。具体的には、取材内容そのまま、資料そのままの原稿です。編集者として「あなたに原稿依頼した甲斐がない」と感じるライターさんがムムム、ですね。
コジマ ライターのオリジナリティうんぬんではなく、資料や取材の“素材”を自分なりに料理し て、きれいに盛り付けした原稿がほしいということかな。
遊撃手N氏 そうそう。たまにはライターらしいことも言うんですね。
コジマ …話を続けよう。SEO対策についてはどう考えてる? 依頼側は、ライターにその知見を求めているケースが多いようだけど…
遊撃手N氏 うちの場合は、もしかして僕だけの可能性もあるんですが、SEOに関してライターさんの知見は問いません。それはメディア側の問題ですし、こちらにノウハウもありますから。そこまでライターさんに求めたら、編集者は何をしているの?と思いますね。
コジマ 編集者がいない場合もあるし、SEO対策はケースバイケースということか。ライターさんはまず、取材と原稿の中身に注力してほしいということだね。
編集者など他人の手が入った
文章を読もう
コジマ たとえば、これからライターになりたい人、いいライターになりたいと思っている人に進言したいことは?
遊撃手N氏 それをいち編集者が偉そうに言うんですか?
コジマ そこをあえて、さ。
遊撃手N氏 …そうだ! 以前うちの主将がどこかに書いてたでしょ、「締め切りを守れば仕事はくる」って。
コジマ あったあった。
遊撃手N氏 締め切りを守ることに加えて、やっぱりインプットは大事かも。本多勝一(『日本語の作文技術』の著者)でもなんでもいいけど、“文章読本”を読むのもいい。ポイントは、編集者など他人の手が入った文章を読むこと。いくら好きな文章でも野放図に書き散らした個人ブログでは意味がない。
コジマ 『日本語の作文技術』は初版が1976年と古いけど、だめな日本語の理由とそれを直す技術が書いてある。“文章読本”は谷崎潤一郎や三島由紀夫、丸谷才一、井上ひさしなど、日本の名立たる文豪が著しているね。内容の古さは、自分で考えてアップデートすればいいんだね。
多くのライターがあまり
やっていない上達ノウハウ
遊撃手N氏 もっとカンタンなのは、自分が書いた「掲載原稿」を読むことでしょう。編集者や依頼主(いれば)が、どこにどう手を入れたかを確認する。実はこれをやってるライターは少ないと思いますね。
コジマ 確かに、じっくりとは読んでないかも。
遊撃手N氏 「直しておいたから読んでね」とは伝えませんからね。読んでくれて次回の原稿で修正されていたら、とてもうれしいものですよ。
コジマ 改悪のケースも少なくないからなぁ。担当する編集者の力量によるだろうけど、君はそう思っているということだよね。
遊撃手N氏 そういうことです。
コジマ 言われてみれば俺も若いころ、勤めていた編プロの社長に毎回添削されて、その朱筆が役立ったもんな。(筆者注:そのあたりの話は以下で)
文章読本を読んで“それなり”の原稿を書く。掲載された自分の原稿を読んで次回に修正する。他人に読んでもらうことが大きな意味をもつ。つまり、「読む」がキーワードになっているということですな。
遊撃手N氏 まとまりましたね。「いわしコロッケ」を頼みましょう。この店の名物なんですよ。ところで次回の試合なんですけど…
Google先生が好きな「まとめ」
ひとまわり近くも年下の遊撃手N氏と、仕事の話をじっくりしたのはほとんど初めて。飲んでるときは野球の話ばかりで肝心の話をほとんど聞けず、あらためて電話取材したことを白状しておきます。写真撮るのも忘れたし。
原稿にした以外の話も総合すると、N氏は「ライターさんと一緒にコンテンツつくる」ことに重きを置いているように感じました。極論すれば、一緒に働く仲間になれるライターさんを探している。
このように考えている編集者がどれだけいるかはわかりませんが、これからライターをめざす方にとっては一考に値する話だったと思います。
自分の掲載原稿は確かに、あまりきちんと読んでなかったなぁ。これから気をつけよう。
【お話を聞いた店】
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