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量子技術の基本と日本の戦略

ここ数年、量子技術への期待を頻繁に耳にするようになりました。

ちょうど、Newton2022/5の特集も「量子論」で組まれてました。(こちらは珍しくはないですが☺)

冒頭の記事内に、簡単に歴史が添えられてますが、日本は確かに量子コンピュータの基礎研究で一歩先を進んでいたことがあり、その実用面で出遅れた感が否めません。

が、国家としてどう支えるのかは、そこそこ根が深そうので言及しません。

今回は、その日本も携わった基礎研究の話を補足して、もう少し状況を整理しておきたいと思います。

量子技術のなかで比較的歴史と実用が期待されているのは「量子コンピュータ」です。
「量子力学」の原理を応用して計算処理をさせようというアイデアで、元々はノーベル賞受賞者リチャード・ファインマインの提唱とされています。(真偽は不明)

量子力学を超ざっくりいうと、ミクロな世界では原理的に確率でしか位置と運動を記述することが出来ない不思議な法則です。

例えば、あるついたてで仕切られた2つの部屋がある密閉の箱に、どちらかにミクロな粒子が入っている状態を想像してください。
量子力学では、蓋を開けないとどちらにあるかが分からないため、それぞれの部屋にいる状態を確率的に計算して「重ね合わせ」で表現します。

一方で、現代デジタルコンピュータの原理は0か1のスイッチを電子回路で処理する「決定論」的な機構です。
決して複数の状態を同時には処理できません。(細かくいえば並列処理を組むことは出来ますがあくまで最小動作の原理)

というフリを聞かせると、何となく伝わったかもしれません。

量子コンピュータのアイデアは、この重ね合わせの原理を使って同時に計算をさせる、というものです。

改めてコンピュータ性能に関わる論点を整理します。
従来型は、0か1かのどちらかを情報の単位(ビットと呼称)として保有します。
一方、量子コンピュータは0と1が重ね合わせた単位(量子ビットと呼称)で保有します。

なんとなく、高速化できそうな雰囲気が伝わったでしょうか?

あとは、この原理を使って量子ビットを制御する方式によっていくつかのパターンがあります。

冒頭記事で触れられた日本の基礎技術が先行、とあるのはそのうち「量子アニーリング方式」と呼ばれるものです。
結果だけ書くと、「組合わせ最適化問題」という古くからある問いを解くことに絞ったものです。例えば東京の複雑な地下鉄で何を乗り継ぐと最短か?とかもある意味この分類です。

記事内にもある発案者は西森教授で、それを一気に商用化にもってきたのがカナダのD-Wave社です。

なお、NECが基本素子の開発に世界で初めて成功とありますが、こちらはNECの解説サイトが分かりやすいので引用しておきます。

人によっては、「量子アニーリング方式」は万能でなく特定処理なので、量子コンピュータに含めない人もいます。
そうではなく、汎用的な計算処理を担わせることを目指したのが「量子ゲート方式」で、狭義にはこちらが量子コンピュータといえるでしょう。
(あまり言葉の定義論は生産的でないのでそれ以上の言及は避けます)

今の状況を大まかに言えば、「量子アニーリング方式」はある程度実用化が見えてきていますが「量子ゲート方式」はまだ基礎研究が続く段階、です。

何をして比較するのかは難しいところはありますが(えてして宣伝のうまさも影響します。量子超越性を超えた!とか・・・)
特許出願は1つの客観的な指標かもしれません。
たとえば、こちらで量子コンピュータに関する特許出願件数ランキングがまとまっています。(量子以外に脳型も注目が集まってます)


もちろん量子技術はコンピュータ原理だけでなく、そのほかの分野でも注目されており、過去「量子通信」について取り上げました。

「テレポーテーション」という表現を使っているので変な印象を与えるかもしれませんが、実際空間を超えた現象です。(これも量子力学の原理)

そして、さらにその実用化に近づくことを期待される研究発表が中国の研究機関から行われました。

要は、
それまでの世界最長記録18kmを大幅に上回る、100kmの量子直接通信の実現に成功した、
という話です。

このように、主要国がしのぎを削っており、どこも国家を挙げた取り組みなのは事実です。

下記のように、日本政府でも動き(開発だけでなく導入支援まで拡張)はあるのは事実なので、今後も注目していきたいと思います。


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