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準禁治産制度-「浪費」すると財産管理権を制限されていたというお話。

こんにちは、筑豊の弁護士、藤岡です。

今日は、「準禁治産制度」のお話しです。

自分の財産は、自分で管理するのが原則。

みなさん、自分の財産は普通自分で管理しますよね。

何に、いくら、どういうタイミングでお金を使うのかはそのお金を持っている人の自由です。

もちろん法律上例外はありますが、基本的にはお金の使い途は本人が決めます。

他人から見れば全く価値のない物を高額で買っていたとしても、その人のお金であれば他人がとやかく言う問題ではありません。

浪費していようがなんだろうが、本人の自由です。

しかし、過去には「浪費」をしていると財産管理権を制限されてしまう制度が存在していました。

それが「準禁治産制度」という制度です。現行の「後見制度」の前身となる制度です。

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「準禁治産制度」ってどんな制度なの?

準禁治産制度は平成11年の民法改正前に存在していた制度です。

【平成11年改正前の民法11条】
「心神耗弱者及び浪費者は準禁治産者として之に保佐人を附することを得」
※ 読みやすいようにカタカナ表記はひらがなに改めました。

この準禁治産制度では、心神耗弱者のほか、「浪費者」が準禁治産者として規定されています(ちなみに昭和54年の民法改正以前は「聾者・啞者・盲者」も「準禁治産者」として規定されていました。)。

このように「浪費者」は準禁治産者として財産管理権を制限されていました。

具体的には、浪費者の家族や親族が家庭裁判所に準禁治産宣告の申立をして、家裁が準禁治産宣告をした場合には、浪費者の財産管理権が制限を受けることとなり、自分一人では有効な法律行為をすることができなくなることとされていました。

憲法違反ではないのか?

浪費しただけで財産管理権の制限を受けてしまうという制度は憲法に反するのではないか、として争われた事例があります。

最高裁は次のように述べて、この制度は憲法に違反しないと結論付けています。

最高裁昭和36年12月13日決定
「浪費者であることを理由として準禁治産を宣告する制度を設けた趣旨は、浪費者が思慮なくその資産を浪費することを防止し、もつて浪費者の財産を保護するにあるから、右の制度は、憲法一三条および二九条の趣旨と抵触するものでないことはいうまでもなく、また、浪費者であることを理由として準禁治産の宣告を受けた者も、その原因が止んだときは、民法一三条、一〇条により、家庭裁判所は、本人その他民法七条所掲の者の請求によりその宣告を取消すことを要するものであり、本人が浪費者でなくなつたことは、本人の日常の行動その他具体的事実により十分にこれを判断できるのであるから、その行為能力の回復が法律上保障されているのであつて、その保障がないとの見解を前提として、この制度の違憲を論ずるは、当を得ない。」
(参考)
【憲法第13条】
すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。

【憲法第29条】
1 財産権は、これを侵してはならない。
2 財産権の内容は、公共の福祉に適合するやうに、法律でこれを定める。
3 私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる。

どんな場合に「浪費者」と認定されるのか

では、どのような場合に「浪費者」と認定され、財産管理権を制限されてしまうのでしょうか。

精神上の障害はなくてもかまわない。
現行法である成年後見制度では、本人の財産管理権を制限するには「精神上の障害」が必要となっています。

しかし、「浪費者」の認定に、「精神上の障害」は不要です。

「家産」にあたるような財産を浪費している場合
特に(旧)家制度の影響が強く残っていた頃には、一家の財産は戸主がきちっと管理して、次の代に引き継ぎ、子孫の繁栄をはかることが重要視されていました。

そのため、いわゆる「家産」という性質を有する財産については戸主といえども自由に扱える財産ではないわけです。

こういった「家産」を無為に消費してしまっている場合には「浪費者」と認定されやすかったようです。

浪費行為によって将来、自分自身や家族の生活を維持することが困難となってしまう場合
浪費によって自分の生活や家族の生活が維持できなくなるような場合です。特に、配偶者や未成熟の子がおり、その扶養が維持できなくなくような場合に浪費と認定されていました。

お金の使い途が、社会的非難に値するような場合
酒色等による浪費が原因の準禁治産宣告申立はかなり件数にのぼっていたようです。

なんでこんな制度があったの?

上で紹介した最高裁決定では「浪費者が思慮なくその資産を浪費することを防止し、もって浪費者の財産を保護するにある」というふうに制度趣旨が説明されています。

本来の制度の目的はこの通りで、あくまでも本人に財産管理を任せると放蕩してしまうので、本人から財産管理権を取り上げ、本人の財産の散逸を防ぐことに主眼があります。

しかし、実際には、本人の財産を保護するというよりも、それ以外の目的のためにこの制度が利用されていたようです。

どういった目的で利用されていたのか?

浪費者の家族・親族の財産の保護
浪費者の放蕩によって家族、親族が扶養を受けられなくなってしまったり、浪費者の借金などを家族、親族が肩代わりせざるをえなくなるケースは現在でも散見されます。

こうした事態の根本原因を絶つために、浪費者の財産管理権を取り上げようという目的で準禁治産制度が利用されていました。

家族、親族の財産を守るためですから、本人の財産を保護するためという制度趣旨からは外れています。

親類縁者からの浪費者に対する懲罰
要するに、親類縁者がいくらいさめても浪費者が浪費をやめない場合に、裁判所に準禁治産宣告の申立をして、お前の財産管理権を取り上げてもらうぞ、という利用方法です。

これに対して、浪費者が反省して浪費をやめた場合には、宣告取消しの申立をしたり、宣告前なら申立てを取り下げたりしていたようです。

これも本人の財産保護というよりも、浪費者をこらしめて反省を促すという目的のためにこの制度が利用されています。

平成11年民法改正によって「浪費者」の規定は削除されました。

なお、この「浪費者」の規定は平成11年の民法改正によって改正され、現在では、単に浪費したからという理由のみで保佐開始となることはありません。

ただし、浪費の原因として認知症などの精神上の障害がある場合には、その精神上の障害を根拠として保佐開始となることは考えられます。

また、破産法では「浪費」を免責不許可事由として規定しておりますので、「浪費」によって借金を作った場合には免責が認められなくなる場合があります。

【破産法252条】
1項 裁判所は破産者について,次の各号に掲げる事由のいずれにも該当しない場合には,免責許可の決定をする。
1~3号 略
4号 浪費又は賭博その他の射倖行為をしたことによって著しく財産を減少させ,又は過大な債務を負担したこと

というわけで、自分のお金とはいえあまりに無計画に使っていると大変なことになる場合もありますので、ご注意ください。

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