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【書評】ジム・コリンズ『ビジョナリー・カンパニー4 自分の意思で偉大になる』--調子が良くてもやり過ぎない

 この本に出てくるアムンゼンとスコットの話が良かった。アムンゼンは南極探検を控えて様々な準備をする。ヨーロッパを自転車で長距離縦断したり、アザラシの肉を食べてみたり。そして今まで南極探検した人の残したあらゆる資料を読み漁る。
 いざ南極点に向かって出発しても準備は怠らない。様々な場所に食料を用意し、細かく目印の旗を立てる。そして調子が良くても悪くても、1日に20マイルしか進まない。
 こうして調子がいい日も頑張りすぎて疲れきることもなく、そして調子が悪い日も、なんとか決めた分を頑張って踏破し、きちんと南極点に到達して無事に生還する。
 スコットは違う。新しく雪上車が開発されたと言われれば、南極の気候できちんと動くかどうかを検証せずに導入する。極点では普通、犬ぞりが使われると知っているのに、なぜか馬で出発してしまう。
 結局のところ、寒さで雪上車は動かなくなり、馬たちも気候に合わないとわかる。そして人力で長い距離、ソリを引く羽目に陥る。蓄えも少なく、立てた旗はまばらで、何度も目印を見失ってしまう。進める時はどんどん進み、疲れると休みすぎる。
 アムンゼンのスコットも大した体力的な違いはなかっただろうに、ゆっくり着実に進んだアムンゼンは素早く南極点に到達し、遅れて到着したスコットは帰り道に遭難して亡くなってしまう。
 企業も同じだ、とジム・コリンズは言う。将来何が起こるかわからない、不安定で不確定な時代に企業を経営するには、着実に少しずつ、変わることなく前進する必要がある。
 機会をとらえても拡大しすぎない。あるいは新製品を出し過ぎない。身の丈にあったチャレンジをしながら、ちょっとずつ確実に拡大していくことが大切だ。
 こうした教えは個人にも当てはまるだろう。調子がいい時もやりすぎない。調子が悪くてもなんとかこなせるぐらいに仕事の量を調整する。ちゃんと日課を決めて毎日きちんとやり、達成できたら自分を褒める。そうやって着実に進める人の方が、結局は成果を出すことができるのだろう。
 この方法で一番難しいのは、調子がいい時にやりすぎず、あえて途中で仕事をセーブするところだと思う。もちろん若い頃ならそれでも後で帳尻が合うかもしれない。でも大人になれば、やり過ぎると確実に疲労し、その疲労が抜けなくなる。
 達成感はあるが疲れすぎない、という絶妙なポイントを持続し続けるところに仕事のコツがある。そのことを教えてくれた本書は素晴らしい。

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