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北米での不動産投資売買で使う契約書

この記事は2020年に執筆されています。

1)賃貸借契約書について

一般的な考えとして、法的条項は弁護士が考えて書き入れてくれますが、ビジネス条件は購入者が弁護士に指定する必要があります。また、弁護士が書き入れた法的条項も、その都度検討中のオファーに対して妥当なのかを把握し確認する必要があります。例えば、賃借人の立場から見て、更新回数や事前申請のプロセスやタイミングは足りているのか、敷金(Security Deposit)は市場に相当しているかなどがあります。仲介業者の中には(特に住宅業界では)雛形を使って賃貸借交渉を進める場合もありますが、商業物件では契約書や条件がそれぞれ異なり複雑になる為、雛形ではカバーし切れないのが現状です。そして、不動産契約の場合には、不動産専門弁護士に相談して書類作成を依頼することは必須です。

また、賃貸人の立場から言えば、賃借人の財務情報提出の義務は有無か、退去時のテナント工事の所有権はどこになるのか、またそれにより原状回復責任はどうなるのかなどは、当初の投資戦略に基づいた考えを考慮して検討する必要があります。そして、テナント候補の事前情報(財務情報や業務内容)を精査する上で、「却下」ポイントはどこに設定するのかなどは貸し出しサインを出す前に決めておく必要があります。

その上で、このブログでは投資家という状況から、賃貸人としての賃貸借契約書内容についてお話ししたいと思います。

2)賃貸借契約書のポイント

では契約書内容においてのポイントについてお話ししたいと思います。北米(特にオフィス)においての基本契約期間は10年間です。もちろん、各賃貸状況やマクロ経済状況においては、異なる期間が主流になる場合もあります。以前シアトルやサンフランシスコの物件では、1フロアー以下のテナントの場合には、10年以下の期間の契約書も多くありました。また、賃貸側としても経済がこれから上昇する傾向にあれば、期間を短くして締結するのが一般的です。

話を戻しますが、10年の賃貸期間であれば、なんだかのテナント工事費かフリーレント期間が付け足されます。ただ、それらが全て最初に設置されることは稀です。好経済状況では初年度のテナント工事負担金も少なく、フリーレントなども含まれません。また6年目にカーペットと塗装の塗り替えと称して、多少のテナント工事負担金を設定する場合もありますが、これはやはりその時の経済状況とテナントの信用力により異なります。

賃貸人として賃貸借契約書締結上重要な点は、継続した賃料の支払いと期間満了と同時の問題ない退去です。ですから、良好な関係の継続とテナントの経営状態の継続的把握は必須です。ですから、契約書内にも毎年の監査済み財務諸表の提出は義務付ける項目です。もちろんパッシブ投資家の場合には、直接的な物件運営に携わる事がないので、日々のテナント状況は分からないかもしれません。その場合には管理会社の選定は大切なプロセスになります。

3)テナント選択の注意点

テナント選択の上で、仲介業者によっては意図的にテナント候補についての情報を開示しない担当者もいます。その場合には即要注意する必要がありますが、その上でも迎え入れる場合には、強制退去を含めた支払い滞納時のプロセスやスペースの再所有権についての流れや判断ポイントなどは十分注意して、賃貸人に有利な文言を書き入れるべきです。テナントの法的保護からも可能な方法が限られる場合がありますが、それは弁護士との要相談事項です。例えば、バンクーバーの場合には、賃貸滞納テナントにはまずは書留で連絡する義務があります。その後数日間の猶予が与えられ、それでも執行しない場合には、先ずは敷金から遅延分を取り壊して充てます。その際にも即テナントに連絡をし、敷金のさらなる充当を催促します。そして、「妥当」な期間(約一週間から10日)過ぎた頃に、弁護士の方から更なる督促状を出し、裁判所からの再所有許可書をその後得た上で、Bailiff(執行官)を雇い再所有権利の執行になります。

その際も、テナントスペース内に保管されている物品は全て執行者(よって賃貸人)の管理責任下になりますので、テナントの顧客からの預かり品(例えば車の修理工場に保管してある顧客の高級車)に対しても管理義務が発生します。ですから、それらに破損等が生じたときには、賃貸人も連帯加害者として訴えられる可能性があるということです。

この例をご覧になってもお分かりになる様に、このプロセスは複雑でストレスが溜まります。そして、敷金の充当を催促したり再所有しても、このステージのテナントの多くは支払い不可能な状況な為、金銭の回収も不可能です。ですから、賃貸借契約書やそれ以前のテナントセレクションでは厳重な審査が必要になります。

4)その他の契約条項について

その他の契約条項でキーとなるのは、テナントの契約期間満了前の退去及びその場合の未払い賃料回収方法や既に充当したテナント工事費の払い戻し金額の計算方法(そしてその会計処理)、その場合の原状回復義務や賃貸人へのペナルティーの支払いなどがあります。

また、テナントスペース視察に対しての事前告知期間やスペース内の破損箇所の修理や無断テナント工事などについて対応する条項もとても貴重な案件です。弊社の考えでは、全てをがんじがらめにしてテナントを拘束するのはテナントの業務に支障が出て、両方のWin-Winな関係は構築できないと思っています。また管理上の責務とはいえ、頻度の訪問や視察はテナント業務の妨害になり、訴えられる事もあります。よって、修理箇所や無断工事については月一のテナントスペース訪問の際にテナントに修理や未申請工事箇所がある事を伝え、退去前に余裕を持った対応を予定する方が契約書の早期締結が可能になると思います。

賃貸借契約書では地域や物件タイプによっても、内容が異なるのは言うまでもありません。また、当初の投資戦略によっても各賃貸借契約の重要点なども変化してきます。しかし、一般的に見て、北米の賃貸借契約書は通常60ページほどある書類になります。

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