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ヨルダンの砂漠で過ごした圧倒的な非日常。一生忘れられないワディ・ラムでの一日

世界一周141日目。朝5時半、アラームが鳴る。今日は二度寝は許されない。ベッドでぬくぬくしている間に、5時50分。いよいよやばい。準備をしなければ。

ベッドの手すりに干している洗濯物を圧縮袋に入れて空気を抜く。歯磨きをして、服を着替える。荷物をバックパックにつめて、ベッド周りに忘れ物がないか確認。

ロビーへの階段を上がり、チェックアウト。なんとか間に合った。

6時25分、宿の前にバスが到着。バスにはすでにいろんな宿からの乗客が乗っていた。空いている最後列に座ると、すぐさまバスは動き出した。

いざ、ワディ・ラムへ出発だ。

ワディ・ラムは今回のヨルダン旅でペトラに次いで行きたかった場所。ヨルダン南部、サウジアラビアの国境近くにあり、赤茶けた砂漠に巨大な岩山がそびえ立つ特有の景観が見られる。その光景は「月の谷」とも呼ばれている。

この地には1万2000年前から人が住んでいたとされ、2万5000もの岩面彫刻や2万を超える碑文などが残されている。一帯は「ワディ・ラム保護地域」として、自然と文化双方の価値が世界的に認められた複合遺産に登録されている。

バスが出発するやいなや、スタッフが乗客に呼びかける。

「予約しているキャンプサイトを教えて!ヨルダンパスは持っている?」

しまった。キャンプサイトの予約もしていなければ、ヨルダンパスも持っていない。

ワディ・ラムの観光は、キャンプサイトに宿泊してツアーに参加するのが一般的。自然保護区内には公共交通機関がなく、自力で回るのはまず無理。砂漠の中で生きるベドウィンに案内してもらうのだ。

そこまでは事前リサーチで知っていた。しかし、まだ何の予約もしていなかった。

バスに乗っている旅人でキャンプサイトをまだ予約していないのは、僕だけだった。

バスのスタッフに呼ばれた。「ツアーの案内をするから、俺の隣に座れ」と先頭へ座席を移動させられた。

そして、彼からキャンプサイトの宿泊とツアーの説明があった。ここで直接申し込めるらしい。値段は忘れてしまったが、直感的に高いと感じた。

「地球の歩き方」やネット情報によると、バスが到着するビジターセンターでも砂漠ツアーを申し込めるとのことだった。まだ時間も早いし、そこで聞いてみた方が安全な気がした。

「ビジターセンターでツアー申し込めるよね?」
「申し込めるけど、もうちょっと高いかもしれないね」

むむ、それは本当だろうか。自分のところで予約してほしいから脅しているのか。彼の笑顔の裏の真意はどうもつかめない。

「ちょっと考えさせてくれ」
「いいよ、2時間あるからね」

ペトラからワディ・ラムまではおよそ2時間らしい。

さあ、どうする。

まずはbooking.comで宿を探してみる。最安値は1泊420円。しかも夕食・朝食付き。ありえないほど安い。しかもクチコミも悪くない。これは逆に心配だ。

他の乗客がどこに泊まるのか聞いてみるのがいいかもしれない。ただ一つ問題があった。僕は最前線にブロックされている。もともと座っていた最後列に戻りたいが、バスが動いている中、移動する勇気はなかった。

1時間ほど経つと、休憩場所に到着。このチャンスを見逃すわけにはいかない。

休憩中に、片っ端から乗客に「どこ予約した?」と聞いて回る。すぐさまbooking.comで検索。なるほど、みんなそれぞれに違うキャンプサイトを予約しているようだ。2000円台の人から8000円台の人まで色々。

彼らは「友人がおすすめしていた」「宿の人に勧められた」と言っていた。

僕も事前に聞いておけばよかった。さて、どうする。

休憩が終わると、僕はナチュラルに最後列の席へ移動。スタッフが離れた場所で自分の思考に集中した。booking.comと睨めっこし、「デザートシャインキャンプ」というところを予約した。1泊2食付きで、2226円。悪くなさそうだ。砂漠で最安値はちょっと怖い。寝ている間にラクダに襲われるかもしれない。

あとは、宿で直接ツアーを申し込めるみたいだ。自分で予約したことをスタッフに伝えると「オッケー。じゃあそこで降ろすね」と笑顔で言う。うーん、悪い人じゃなさそうだ。

8時15分、ビジターセンターに到着。僕ともう一人だけが降ろされ、ここで自然保護区の入場料を支払う。5JD(約1050円)。他の旅人が持っているヨルダンパスには、様々な遺跡や観光スポットと同様、ワディ・ラム自然保護区の入場料も含まれているため、個別で支払う必要はないようだ。

僕ともう一人が入場料を支払うと、バスは再び出発。ビジターセンターで降ろされると思ったのだが、キャンプサイトを予約しておくと、直接そこまでバスで向かってくれるようだ。

8時32分、「デザートシャインキャンプ」のオフィスに到着。ここは宿泊するキャンプサイトではなく、あくまでオフィス。宿のスタッフから「何したい?」と聞かれ、ツアーの説明が始まった。

話を聞いていくうちに、もしかするとミスったかもしれないと感じるように。バスで申し込んだ方がよかったかもしれない。

1日ツアーは他の人と一緒なら70ディナール(14700円)、一人貸切なら100ディナール(21000円)。4時間ツアーは他の人と一緒なら30ディナール(6300円)、一人貸切なら50ディナール(10500円)。

総じて高い、と思った。価格は全て1泊2食付きの宿代も含めた金額とのこと。もはや何のために宿を予約したのか分からない。

想定外な点が2つあった。1つ目は、想像よりも値段が高いこと。2つ目は、他の宿泊客がいないことだ。

事前情報では、宿ごとにツアーが催行されており、ツアーは車1台ごとの料金のため、複数人で参加すれば一人当たりの負担は安くなるとのことだった。同じ宿の人と一緒にツアーを巡ればいい、と僕は軽く考えていた。

だが、どうやらこの宿には僕ひとりしかいないらしい。正確にいえば、他に二人のゲストが予約しているが、彼らはいつ来るのか分からないとのこと。彼らがもしすぐ来るのなら、一緒に相談してツアーに申し込むのもあり。だが、もし彼らが来るのが夜だったら、何もしないで1日を終えることになってしまう。それでは、何のためにワディ・ラムに来たのか分からない。

1日ツアーなら、他の宿の客と一緒に行けるようにしてくれるとのことだった。70ディナールか、、、。いやー、高い。どうしよう。

「1日ツアー60ディナールにしてくれない?」

念のため聞いてみたが、撃沈。僕は腹を決めた。高いとは思ったが、70ディナールで1日ツアーに参加することにした。

事前の情報やヨルダンの物価を考慮すると高い気がするが、冷静に考えてみる。砂漠で1日過ごすという非日常の体験。砂漠ツアーを1日して、砂漠に1泊。ランチ、ディナー、翌朝の朝食もついている。水も紅茶も飲み放題で、1万5000円もかからない。むしろ安いのではないか。

高いか安いかを考えることをやめた。今日しかない一日。ここでしかできない体験を思いきり楽しもう。

ツアーは10時半スタートと聞いていたが、9時45分にガイドが迎えに来てくれた。まずはロレンスの泉へ。そう、ワディ・ラムは第一世界大戦時、イギリス人将校ロレンスがベドウィンたちを統率してオスマン軍と戦う活躍を描いた映画『アラビアのロレンス』の舞台。ここにはロレンスに関するスポットもたくさんあるのだ。

ガイドが色々と教えてくれるのかと思ったら、彼は僕を放置。そういえば、まだ同じツアー仲間が来ていない。僕の他に3人のトルコ人が一緒だと聞いていたが…。

まあそんなことはいいか。ひとまずトレッキングするか。

もはや道はない。完全にロッククライミングだ。

やっぱり上から眺める景色は素晴らしい。

トレッキングを終え、休憩することに。

シャイ(紅茶)を飲みながらのんびりしているところに、トルコ人3人が合流。ガイドは「じゃあね。彼が今日のガイド」と告げて、消えていった。いや、お前ガイドじゃなかったんかい!

ここから砂漠ツアーが本格開幕。

ワディ・ラムはただただ美しく、圧倒的だった。

赤土の坂を駆け上がったり、

まるで火星?と思うような景色に出会ったり、

碑文についてガイドから解説を聞いたり(本当のガイドはとても親切だった)、

石の橋の上で記念写真を撮ったり。

ランチは砂漠のど真ん中で、ベドウィンのガイドが作ってくれることに。

休憩時間にスマホを見ようとしたら、圏外だった。

砂漠で食べるランチはめちゃくちゃ美味しかった。スプライトがこれまでの人生で一番うまかった。

70ディナールを払っているから、お腹いっぱいになるまで食べた。

出会う景色全てが絶景だった。

夕日も素晴らしかった。

夕日が沈むと、すぐに暗くなる。キャンプサイトへ移動し、

ディナーも食べ放題。ここぞとばかりに食べまくる。

ディナーの後は焚き火を囲んで、伝統的な弦楽器ウードの演奏を聞いた。

キャンプサイトにもWi-Fiはなく、ネットにつながらなかった。

SNSもGoogleも存在しない世界。ただ目の前の景色を眺めて、今この瞬間を楽しむ。ワディ・ラムでの一日は圧倒的非日常だった。




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