見出し画像

「旅をする木」 星野道夫さんとの出会い

写真家の星野道夫さんといえば、カリブーやホッキョクグマ、クジラなどのアラスカの自然を優しい視点で撮った写真が有名である。以前、他の写真家の方が撮ったアラスカの自然の写真を見て、その荒々しさに驚いたことがある。星野さんの写真は厳しい自然を撮りながらも、どこか優しく、命の一瞬の輝きのようなものを捉えているような煌めきがある。それは、星野さんのエッセイを読んでもわかるように、彼自身の人となりからくる視点なのだろうと思う。

そう、星野道夫さんといえば写真家なのである。が、私は彼のエッセイが大好きだ。
私が初めて星野さんのエッセイを読んだのは中学生の頃。国語の教科書に載っていた文章が印象的で、出典を図書館で探して読んだのが始まりだった。
初めて読んだその文章は、星野さんが19歳の頃、当時今よりも遠い場所だったアラスカに手紙を出し、エキスモーの一家と一夏を過ごした経緯と経験を書いたものだった。
私は当時中学生で、漠然とした外国への憧れを持っていたが、同時に未知の世界へ飛び出すことにはある種の恐れも感じていた。私は星野さんの熱意と行動力と、それを大袈裟に感じさせない素朴な文章に強く惹かれたのだと思う。
そして図書館から借りてきた「旅をする木」という本を読んで、この人の文章が大好きになってしまった。自然写真家でありながら、環境破壊や人間の進化・発展を声高に否定することなく、ただ時の大きな流れとして、変わりゆく自然や人間を見つめる視点は当時の私にとってとても新鮮なものだった。素朴な暮らしを守ることも、豊かさを求めることも、どちらも否定しなくて良いんだ。一人一人が選んでいくそれぞれの生き方なんだ。そして、私の知らない遠いアラスカの人々の暮らしを星野さんの文章から垣間見ることは中学生の私に世界の広さと生活の多様さを想像させてくれた。

30代になった今でも、星野さんの文章を読むと私は心が静かになる、と感じる。慌ただしい生活の中で、大きな自然、多様な暮らし、静かな視点に触れ、休息する機会をくれるのだ。


この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?