雨の日にできること…

 「理想の人間関係とは1人と皆であることだ」誰に言うまでもなく、ポツリと少女は呟いた。

雨の匂いが心地良い。フルーツ味の飴を口の中で転がしているように、雨の匂いは甘く楽しいものだ。

外の清々しく鋭利な空気を吸って吐く度に、面白いことに白い煙が口からでる。

雨上がりの水溜まりが、ふと気にかかり覗き込む。水面にはいつものように冴え通る切れ長の目がシャープな顔立ちを捉えている。相も変わらず、愛おしい顔だ。口元は雨の後なのか少しだけ艶やかに見えた。

外は寒く、誰も彼もが家に籠り、虫も見かけない。今、私の視界には何者も存在しない。この空間は、私だけの冬の世界なのだ。

「これだけ寒いと綺麗も綺麗に深まる」
鼻先がツンとしていて、自分でも赤くなっているのが分かった。自分の頬を、そっと手袋をつけた手で撫で通す。ああ…なんて愛おしい体なのかしら…。これから先、何十年もこの体でやっていく。その事実が、たまらなく嬉しくて、つい頬が緩んだ。

白い大気を纏った町で、1人公園を目指して淡々と肉体を酷使して歩いた。一歩進む度に、手持ちのバッグに入ったカメラが寒いんじゃないかと心配になりながら歩いた。

 浮かんでくる独り言をふつふつと呟きながら、少し歩いて公園についた。草の一部分が凍ってたり、木の葉の上に水滴が乗っている。

「わっ」

枝を揺すると雨の雫がたくさん落ちてきた。その瞬間に、一つ一つの雫が美しく光る。この情景は、この空気感は、冬にしか味わえない得難いものだろう。

「貴重、だ」少しだけ嬉しい気持ちを噛み締めながら、私はバッグから三脚つきのカメラを取り出して、水がつかないようそっと立てる。物珍しいのか、私のことを見に猫が3匹ほど集まってきた。良いもの見れた。

 私が何をするかというと、「一人映画撮影」だ。何が悲しくてこんな寒い冬の日に外に出て、それも1人で映画撮ってるの…イカれてるのか?とか思うでしょ。ノンノンノン、分かってないねえ。

「そう、芸術家は自分の裸を模写したりするでしょう?それと同じように、私の思い着いた普段しないことをすれば、感性を更に研ぎ澄ませられるかもっ」

ま、そういうこと。というわけで早速、手袋脱がして私は地面の砂利を大量に掴んで成人男性4人分はある大きさの水面におもいっきり投げた。もちろん、カメラはもう点けてあるさ。

バシャシャシャっと音を立てる。

「あはは」思わず笑う。大きな水面にはたくさんの水紋ができて、魔法を使ったみたいに不思議な感覚が残る。

「これが、私の芸術なのか!!」誰に言うまでもなく、一人興奮気味に発狂する。

周りに見物しに来た猫達が驚いて逃げてしまった。足がほつれて転んだ黒猫が、かわいらしくてつい歩み寄ろうとするが、やっぱりその前に逃げられた。

「さて、と。たまには良いかもね。散歩のついでに感性の発展!悪くない。」
誰に言うまでもなく、ただ少女は呟いた。カメラの動画を確認したあと電源を切り、ただ下らないとばかりに、空を見た。

私は他の人とは相容れない何かがあるが、今興味があるのは私自身だ。だから、これでいい。
「友達って、なんだろうか…。」
誰に言うまでもなく、ただ一人、少女は嘆いた。



 

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