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【20枚シナリオ】職業はお医者さん(ごっこ)

人 物

下松横介(28)保育士
永田香織(38)スナック月猫のママ
永田桃子(4)香織の娘
男A
女A
客A
保育士A
保護者A

 ○スナック月猫・表(夜)

やや派手な衣装に身を包んだ男Aと女Aは、スナックの正面に背をもたれて横にならび、タバコを吸いながらスマホを見て騒いでいる。
店内から下松横介(28)が出てくる。

男A「内田のやつ、別れた途端ストーリーが道端の花ばっかりになってんの」
女A「まじウケる。センチってんじゃん」
下松「あ、あのー」
男A「『今日は萎れたタンポポと出会う。花との出会いだけは裏切らない』」
女A「まじウケる。ポエミーじゃん」
下松「すんません!」
男A「あ?」
下松「ここ、その、店の前なんで」
男A「俺ら今楽しい気分だったのに、お前水差しちゃったのわかってる?」
女A「(小声で)空気読めよ」
男A「それなー!」

男Aと女Aは再びスマホに向き直り、

男A「『一度踏まれても美しく咲く。そんな花に僕はなりたい』」
女A「だっせー」
下松「あ! UFOだ!」
男A「は?」
下松「やばい! こっちに来る! アブダクションされるぞ!」
女A「え、何あれ」
男A「うっせぇな、お前!」

下松は両手をひらひらさせて男Aと女Aの元へ歩み寄る。

下松「ユンユンユンユン! わぁ! まずい! 怪しい光が降り注ぐ!」
女A「ねぇ、なにこの人」
男A「うるせぇって言ってるんだけど」
下松「ああ、吸われる! 未知の惑星に連れていかれるんだ! きゃあああああ」
女A「ねぇ、怖いよ」
男A「え……。おい!」
女A「行こう?」
男A「え、えーっと」

女Aは困惑する男Bの腕を引いて去っていく。

下松「タコ型宇宙人に改造されて、足が八本になって……」

下松は一人奇妙な動きを続ける。

○スナック月猫・店内(夜)

和風な装いの永田香織(38)がお酒をグラスに注いでいる。
香織の正面に下松が座る。息が上がっている。

下松「まぁ、こんなもんですよ」
香織「横介さん、助かりました」
下松「いいんです。香織さんのお願いなら」
香織「ブランデー。サービスね」
下松「ありがとう。嬉しいよ」

下松はブランデーを啜ってから、

下松「若者にはビシッと言ってやりましたから。『相手の立場に立てることが、大人の始まりさ』ってね」
香織「UFOとかなんとか聞こえたけど」
下松「気のせいです。なんたって僕は医者ですから、コミュニケーションには優れているんです」
香織「そうでしたね。立派なこと」
下松「ええ。明日は、後輩の研修指導をしなくてはいけないんです。優秀だと仕事が増えて、困っちゃいますよ」
香織「あらあら」

下松と香織は笑い合う。

○ひまわり保育園・室内

ござの上で下松と永田桃子(4)が向かい合っている。
下松は保育士の格好をしている。
桃子はおもちゃの聴診器を下松に当てる。

下松「桃子ちゃん先生。僕の具合はどうですか」
桃子「癌です」
下松「え?」
桃子「ステージ4の膵臓がんです」
下松「どこで覚えたの?」
桃子「非常に厳しい状況です」
下松「桃子ちゃん先生、治る見込みはあるのでしょうか」
桃子「明日死にます」
下松「桃子ちゃん、そこは患者を安心させないと」
桃子「(声色を変えて)医者の仕事は医療行為だけだ。嘘で安心させてどうする」
下松「桃子ちゃん、キャラ変わったね」

下松は困った笑顔。

○スナック月猫・店内(夜)

香織はカクテルを作っている。
香織の正面に下松が座っている。

下松「いやー、今日の仕事は大変でした」
香織「お疲れ様です」
下松「研修中に急患が入りましてね。ステージ4の膵臓がんだったんですよ」
香織「まあ大変」
下松「でも、僕がパパッと直してやりました」
香織「あら大したものね」
下松「ステージ4でも5でも、なんでも来いって感じですよ」

下松の二つ隣に座っていた中年男性の客Aが下松の方を向き、

客A「そ、それは本当ですか?」
下松「はい?」
客A「つ、妻がステージ4の膵臓がんなんです。セカンドオピニオンまで受けたのですが」
下松「せ、セカンドなんだって?」
客A「余命三ヶ月を宣告されて、治療の成功率も低いし、副作用だった激しくて」
下松「え、いや、その」
客A「妻を助けてください! 先生!」
香織「田中さん、落ち着いて!」
下松「僕はその……。あ! 急にお腹が!」

下松は店から去ろうとする。
客Aはすがるように下松に絡みつく。
二人の間に香織が割って入る。

客A「待ってください!」
下松「あー、いたたたたた」
香織「田中さん、この人実はね」

揉み合う三人。

× × ×

香織がグラスを拭いている。
香織の正面に下松は座っている。

下松「なぁんだ、バレてたんですか」
香織「当たり前ですよ。医者にしては安い酒しか頼まないじゃないですか」
下松「確かにそうですね」
香織「で、本当はなにされてるの」
下松「子供に愛されてる仕事です」
香織「昆虫博士?」
下松「なんでそうなるんですか。保育士ですよ」
香織「あら、医者より素敵じゃない」
下松「そ、そっすか?」
香織「どこで働いてるの?」
下松「ひまわり保育園ですよ。おしゃれなカフェとお花屋さんの間にあるんです」

下松は得意げな表情をしている。

*    *    *

 ボツ案。お題は魅力的な男。見栄っ張りでダサいけどやるべきことはやる姿を描こうとしたけど、全体として何を描きたいのかよくわかんなくなったので断念。

毎日コメダ珈琲店に通って執筆するのが夢です。 頂いたサポートはコメダブレンドとシロノワールに使います。 よろしくお願いいたしますm(_ _)m