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【シナリオ】一方通行

人 物

 真中誠一(24)フリーター
 客
 店長
 配達員
 取引相手
 警察
 女性
 男性

○コンビニ店内(夜)

真中がレジに立ち、レシートを使って手遊びをしている。
五十代くらいの客が真中の正面にやってきて、

客「タバコ」
真中「どれ、すか」
客「それ。右」
真中「これ、ですか」
客「違う。右」
真中「セブンスター」
客「右っつてんだよ」
真中「これですか、それともハーベスト・スリム」
客「(怒鳴る)おーい」
真中「すいません」

バックヤードから店長が出てきて、真中と客の間に割って入る。

店長「申し訳ありません、お客様。フィリップモリスですよね?」

店長はにこやかに対応しているが、片手を後ろに回し、真中の手首を強引に掴んでバックヤードの方へ雑に追いやる。
客は財布を取り出しながら、バックヤードに消えつつある真中の方を見て、

客「おい、お前レジやれよ」

真中は立ち止まって戸惑う。

店長「早く来い」

真中は客の前へ。
店長はバックヤードへ。

真中「六百円になります」

客はトレーに百円玉を一枚だけ置く。
真中は客の顔を見る。

客「なんだよ」
真中「……ちょうどお預かりします」

真中、トレーを下げる。

○コンビニ・外(夜)

裏口から真中が出てくる。

真中「お先、失礼します」

真中はすぐにスマホを起動し、フリマアプリを開く。
真中のアカウントからは、カードゲームのレアカードが数十万円という価格でいくつも出品されている。
そのうちのいくつかが売れている。
真中は目を大きく見開いて、息を噴き出す。だんだんと高笑いを始める。止まっていた車に喜びの体当たりをする。

○真中のアパート・玄関前(夜)

配達員がビニール袋を持って立っている。
扉が開いて、真中が出てくる。

配達員「こちらでお間違い無いですか」
真中「遅えよ!」

と怒鳴ってから、満足そうに口角をあげる。
配達員は気味悪そうな顔。

○真中のアパート(夜)

散らかった部屋
壁沿いにはショーケースがあり、カードやフィギアが並んでいる。
中央の机には寿司やら焼き肉やらの出前と、瓶ビール。

真中はそれを食いながらフリマアプリで取引相手とチャットしている。

取引相手「こちら、七十万円に値下げしていただけませんか」
真中「値下げ対応は行っておりません。表示の価格でご購入ください」
取引相手「そこをなんとかできませんか」
真中「常識的に考えて、困難かと」

真中は画面に向かって鼻で笑う。

○カードショップ

小さながまぐちを持った小学生がカードパックの棚を眺めている。
小学生の前に真中が割り込んで、手持ちのカゴにありったけのカードパックを詰め込んでいく。
カゴからカードパックが一つ落ちる。小学生はそれを拾おうとするが、真中がすかさずカゴに戻す。

○道路(夜)

小雨が降っている。
レインコートを着た真中が原付を運転している。両手にはカードパックが入ったビニール袋。メーターは三十キロちょうどを指している。
後ろから警察のバイクがやってきて、

警察「君ちょっと止まって。原付は三十キロまでって知ってるよね?」
真中「え、超えてないっすよ」
警察「夜は体感遅く感じるからね」
真中「いや、ほんとに」
警察「じゃ、免許見せて」
真中「えっ……はい」
警察「じゃ、着いてきて」

真中は原付から降りる。

○交番前(夜)

真中は原付を押しながら去ろうとしている。青切符をポケットにしまう。
交番の入り口に警官が立っていて、

警官「じゃ、早く帰って」

真中の真横を自転車に乗った学生達が傘差し運転で前も見ず、談笑しながらすごいスピードで追い越していく。
真中は振り返るが、警官はスマホをいじっている。

○真中のアパート(夜)

レインコートを着た真中が外の階段を登理ながら、スマホでフリマアプリを見ている。八十万円だったレアカードの価格を百二十万円にする。
取引相手からチャットがくる。

取引相手「八十万円で購入させていただくお話でしたが、値上がりしていませんか?」
真中「こちらが正規の価格となります。入金お待ちしております」
取引相手「おかしくないですか?」
真中「取引内容にご満足いただけない場合は、買わなくていいです」

真中は愉快な顔をして、

真中「バカめ」

と呟く。

○真中のアパート(夜)

リビングの窓や物干し竿から水が滴っている。どんよりとした空。
真中誠一(24)はカードパックの封を次々と切り、机の上に積み上げていく。
真中の目線は一枚のカードに止まり、慌ててカードの山をかき分け始める。
それを手に取った真中は飛び跳ねて喜ぶ。
机の脇に置いてあったペットボトルのお茶の水面が小刻みに揺れる。

○道路
リュックを背負った真中が早歩きで歩いている。
真中の前方に背中の曲がった老婆とそれに付き添う若い女性が歩いている。
狭い路側帯なのにも関わらず、真中は二人を押し退けて進んでいく。

女性「ちょ、何考えてんの、この、どこ見てんの」

真中は完全に無視。

○カードショップ(朝)

真中は歩きながらカバンの中を確かめる。一枚のカードがケースに入れられている。それをみて不敵な笑みを浮かべる。
開店前のカードショップには長い行列ができている。
そうとは知らず店の前に行こうとする真中を最後尾の男性が掴む。

男性「何抜かしてんだよ」
真中「はい?」
男性「並んでんだよ」
真中「え?」
男性「知らねえのかよ、これ」

男性はスマホの画面を真中に差し出す。そこには偽カードの流通を知らせるネットニュース。

男性「値段が下がる前に売っちまわないとなぁ」

真中は男性からスマホを取り上げて食い入るように見る。

男性「バカ、返せよ」

奪い返される。
真中は自分のスマホを起動し、フリマアプリを開く。そこには購入キャンセルの通知が数件。
取引相手からチャット。

取引相手「やっぱ買うのやめます」
真中「購入するって言いませんでした?」
取引相手「取引内容に満足できないので(笑)。売れるといいですね(笑)」

店が開き、列はどんどん進んでいく中、その場から動かず取り残される真中。手が震え始める。
車両侵入禁止の道路標識が側に立っている。

〈了〉

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 最近noteに作品が上がっていないのは、コンペや提供用の作品をたくさん書いており、表に出せないからです。ぼちぼちこちらも再開していきます。
 

毎日コメダ珈琲店に通って執筆するのが夢です。 頂いたサポートはコメダブレンドとシロノワールに使います。 よろしくお願いいたしますm(_ _)m