【一輪劇場】ONLY ONCE(3枚)
人物
白上琥太郎(15)中学生
和葉菜々(15)中学生・白上のクラスメート
剣崎刃(38)個人経営のコンビニ「ONLY ONCE」の店主
◯単色背景
剣崎「228円になります……。って、言うと思った?」
タイトル表示「一輪劇場『ONLY ONCE』」
◯個人経営のコンビニ「ONLY ONCE」・中
レジのカウンター。奥に剣崎雌刃(38)、カウンターには缶ビールが一本置いてある。手前では白上琥太郎(15)と和葉奈々(15)が俯いている。白上はやつれた外套を着ており、フードを被っている。菜々は寝巻きジャージ。レジ脇のホットケースには「一度と言わず、何度も食べてほしい『ONLY ONCE 限定チキン』」「寒い日々にはホットなコーヒー『ONLY CAFE』」と書かれた紙が貼られている。
白上「あの……」
剣崎「年齢確認とか、やっとく?」
白上「すみませんでした!」
奈々「申し訳ありません」
剣崎「(ため息)はぁー。謝ってどうにかなる話じゃないんだよね」
白上「でも、その」
奈々「売ってください、お願いします」
剣崎「……(呆れて)いやいや、お願いされてもねぇ。君たち幾つよ」
白上「……」
奈々「……えと、じゅう……」
剣崎「(奈々に向かって語気強めで)なんだって?」
白上「(庇うように)あ、あの、ぼ、僕のお父さんが買ってこいって」
奈々「そうなんです、買ってこないと、その」
白上「(遮るように)僕たちが飲むわけじゃ、ないんで」
剣崎「(遮るように、苛立って)あのねぇ、そういう問題じゃあ、ないんだ」
白上「……はい」
剣崎「ていうか、よくもまあそんなありきたりな嘘つけるね」
奈々「嘘じゃ、」
剣崎「(前のセリフから連なるように)君、何? その格好。大人に変装したつもり?」
奈々「あの」
剣崎「(前のセリフから連なるように)個人経営のコンビニなら、騙せるとでも思って」
奈々「(遮るように、叫ぶ)嘘じゃないんです! ほんとなんです、あの、」
白上「奈々」
奈々「(前のセリフから連なるように)こいつ、毎晩毎晩変な服着て、お店回って」
白上「(奈々に向かって)もういいよ、諦めよう」
奈々「また歩くの? 風邪ひいちゃうよ」
白上「今日は、とりあえず」
奈々「そんな」
剣崎「はいはい、ちょっと落ち着いて」
しばしの間。
剣崎「(観念した感じで)あの、何だか知らないけどね、君らにお酒を売ると、店の信用に関わるんだよ。個人経営なんて、ただでさえ厳しいんだから」
白上「はい、すみません」
剣崎「私もさっきは言い過ぎた。でも、ダメなものはダメなんだ。分かる?」
白上「はい」
奈々「ちょっと、琥太郎くん」
白上「買えなかったって言うよ、お父さんに」
奈々「ダメだよ、そんなの!」
剣崎「(独り言のように)大体、君の父親も大概だね。子供にお酒を買わせるなんてさ」
白上「大丈夫。ちょっと我慢すれば」
奈々は出し抜けに白上へ抱きつく。その拍子に白上のフードが取れて、打撲痕の残る顔が明るみになる。
奈々「いやだよ、そんなの」
白上の傷を見て、冷や汗をかく剣崎。
◯単色背景
しばしの間。「ピッ」っとレジの音。
剣崎「次は来るなよな……」
〈了〉
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