見出し画像

【20枚シナリオ】銭湯は哲学だ!

ログライン

大学のレポートに嫌気が差した主人公は最近ハマっている銭湯へ。ところが、そこで"銭湯ツウ"らしき生意気な少年に出会い...…。

人 物

村上圭太(19)大学一年生
男A
女A
先輩
おばちゃん
少年
父親


本文

○学生寮・村上の部屋(夜)

狭くて物の少ない部屋。
村上が机にパソコンとノートを広げて勉強している。ノートには数式と波のグラフが描かれている。
パソコンにはZoomの画面が映し出され、男A、女Aを含む数名が同じくノートを広げて勉強している。
村上の手の甲には「レポート 19:00まで」と書かれている。

男A「俺今日ね、マクドのバイトでおばさんの客がさ『ポテトのM、ポテト多めで!』って言ってきてさ。『それはつまりLサイズですか?』って聞いたら、『いや、Mサイズ。ポテト多めで!』って言ってて。カコイチ意味わかんね〜って思ったら、この物理のレポートの方が意味わかんねぇわ」
女A「いやそれ、タイだね。デッドヒート」
男A「村上もそう思うよな?」
村上「あー無理。もー無理」
女A「さすがの村上くんもお手上げか」
村上「銭湯行こうかな」
男A「最近ハマってるらしいな」
村上「今日はどっちに行こうかなー」
女A「男湯か女湯か?」
村上「違う。近くて狭い銭湯か遠くて広い銭湯か」
女A「なーんだ」
村上「はい、もう決めました。僕は一度決めたら誰の意見も聞きません」
男A「え、本気で言ってるの? レポートの提出期限って」

村上はパソコンを閉じて席から立ち上がる。

○学生寮・エントランス(夜)

狭くて薄暗いエントランス。
村上は、タオルの入ったビニール袋片手に降りてくる。フード付きのジャンパーを着ている。
村上がエントランスの扉を押す。外は雪が降っている。

村上「雪!?」

村上はすぐに扉の内側に引っ込む。一瞬体を階段の方に向けるが、小さく頷いてから、フードを被ってファスナーを首まで上げる。
再びエントランスの扉を押すと、向こうから顔面蒼白で今にも凍え死にそうな男が駆け込んでくる。

村上「先輩!?」
先輩「おー、村上。相変わらず元気そうで何よりだ」

先輩は震えるからだで村上にもたれかかる。

村上「どうしたんですか。いつもより冷たいですよ」
先輩「今から銭湯か? やはり俺の見込みは間違ってなかった。お前からは俺と同じような湯気が立ってたんだ。共に湯道を極めよう」

村上「だからどうしたんですか」
先輩「稲荷湯が臨時休業だったんだ」
村上「近くて狭い方が?」
先輩「そうだ。お湯を求める俺の心は、水風呂のように冷え切ってしまった。この寒さだ、今日は考えた方がいい」
村上「じゃあ、行くのやめようかな」
先輩「しかし! 君がどうしても湯道を極めたいというのなら、俺は止めない」
村上「え?」
先輩「村上くんの、その滝湯のように真っ直ぐな志があれば、この寒空なんてちっぽけなことだ」
村上「いや、だから」
先輩「行け! 少年よ! バスボムのように沸き立つ湯道の魂を見せてみよ!」
村上「ちょっと、魂とかないんで」
先輩「うっ、最後に、ひとつだけ言わせてくれ」
村上「なんすか」
先輩「銭湯は……、哲学だ……」

先輩の体から力が抜ける。

村上「はぁ……。まあでも、道中大変な方が入り甲斐があるか」

村上はやれやれと首を振る。


○道路(夜)

一層雪が強くなっている。
村上が自転車で坂を登っている。

村上「さっむ。なにこれ」

村上はハンドルを握ってた手をジャンパーの袖に引っ込める。
寒さで顔が赤くなっている。

○銭湯・受付

おばちゃんが受付をしている。
受付のすぐ側に「文京区民は100円デー」とある。

村上「そんな日が」
おばちゃん「身分証お願いします」

村上は財布を弄るが、出てきたのは文京区図書館のカード。

村上「これで……、はだめですよねぇ」
おばちゃん「はいぃ」
村上「えーっと」
おばちゃん「まぁいいよ。次持ってくれば」
村上「いや、もう少しでマイナンバーカードが出てくるんで……」

村上は再び財布を探る。


○銭湯・男湯(夜)

村上が体を洗っている。
手の甲に書かれた「レポート 19:00」の文字が徐々に薄れていく。

× × ×

村上が頭にタオルを乗っけて薬湯に入っている。
村上の隣に六歳くらいの少年が湯船に入ってくる。肩まで浸かると、

少年「あぁ〜〜」

と、おじさんみたいな貫禄のある声を出す。

村上「あ、あぁ〜〜」

村上は真似る。
少年は村上の方を見て、

少年「おじさん、頭にタオル乗せるの、古いよ」
村上「え?」

村上は見渡す。周囲の人で頭にタオルを乗せている人はいない。

村上「てか、僕、おじさん?」

村上は悲しげ。

× × ×

村上はジャグジーに入る。満足そうな顔。
村上は水面に起こる複雑な波を繁々と眺めている。
波が大学のノートと重なる。

村上「わかった! もとまるぞ、これ!」

村上は勢いよく立ち上がる。
銭湯に設置された時計は19:30を示している。
村上は手の甲を見る。苦虫を噛み潰したような顔。

× × ×

村上は水風呂の前に立ち、水風呂を睨んでいる。足先を突っ込んでみるが、

村上「冷たっ!」

足を引っ込め、逃げ腰で振り返る。
順番待ちの人たちと目が合う。

村上「冷たいから、入るんですよねぇ〜」

村上は足先からゆっくりと水風呂に入っていく。顔を引き攣らせ、体を震わせる。

村上「ひぃ〜」

村上は腰まで使ったところで出ようとする。
少年がその様子を見ている。

少年「やれやれ」

と言って首を振る。

村上「(小声で)お、おじさんなめんな」

村上は水風呂に向き直る。

村上「銭湯は哲学、銭湯は哲学……」

と言いながら肩まで浸かる。

村上「(小声で)はい、達成! 見たか!」

村上は水風呂から飛び出て少年の方を見る。
少年は見向きもしていない。
村上は悔しげな顔。


○銭湯・脱衣所(夜)

村上が服を着ている。
村上の脇に「ミルクモナカ販売中」の張り紙がある。
少年とその父親は張り紙を見ている。

少年「パパ、これ食べたい!」
父親「ダメだ。パパは二度とママの関節技をくらいたくないんだ」
少年「えー、いくじなし」

村上はその様子を横目で見ている。突然、着替えの手際が早くなる。


○銭湯・受付

村上は休憩スペースの椅子に座っている。髪は濡れたままで、シャツがはみ出ている。両手にはミルクモナカが二つ握られている。
男湯の暖簾をかき分けて少年と父親が出てくる。
村上はこれ見よがしにミルクモナカを食べ始める。

村上「うめぇ。これは、うまいなぁ」

少年は羨ましそうに村上を見る。
村上はしたり顔で少年を見る。

〈了〉


*    *    *

  「魅力的な男」というお題で書きました。登場人物の魅力とは「憧れ性」と「共通性」のバランスが悪いことで生まれます。当作の主人公である村上くんのは憧れ性は「一度決めたら最後までやる」こと。なんだかんだ言って、雪降るなか銭湯へ自転車を走らせたり、水風呂に肩まで浸かったりしています。共通性は「見栄っ張りである」こと。少年に対してでさえマウントを取らないと気が済まないキャラクターです。

 長編化の展望としては、生粋の銭湯マニアである先輩に振り回されつつも自分ならではの楽しみ方を見つける”入浴コメディ”の路線でいくのはどうだろうか。

 ちなみに銭湯マニアの先輩は書いていて楽しかった。発言ひとつひとつに風呂要素を入れないといけない縛りをしていた。

 銭湯は、哲学だ!

  かっこいい脚本家になるため、日々精進しております。noteやXをフォローしてくれると嬉しいです。

楽しいお知らせ!

 なななんと! 私が脚本を担当したオーディオドラマが「声優ユニットCompass」さんのチャンネルにて投稿されました!

電車に乗り遅れて遅刻が確定してしまった主人公は、駅のホームで一人の青年と出会う。彼はとんだひねくれ者でおまけに憎まれ口のオンパレード男で...…。

どう? 聴きたくなった?

こちらから是非聞いてみてください!

声優ユニットCompassのX↓


毎日コメダ珈琲店に通って執筆するのが夢です。 頂いたサポートはコメダブレンドとシロノワールに使います。 よろしくお願いいたしますm(_ _)m