第一歌集『ねこのなまえ』2
君が吸う舌先
一寸絡めとり押し返すふり
闇の入り口
息がかかる
溶けるアップルパイのなか
冷たい舌が泳ぐ真夜中
生まれきてまず六ヶ月でおぼえると知った
じぶんのいれもの、
なまえ
君の呼ぶまるいなまえを好きになりました
悔しく苦しい
けれど
どこいくのどうするのどこまでいくの
選ぶつもりがないという
恋
名がつけば安心するんでしょう
夫、恋人、家族
野良猫が笑う
飼い慣らすための名前を堂々とはねつけ歩む
いつまで
どこまで
我輩も猫という君
未だ名も実もなくとも
我はおんななり
バレンタインに首輪がわりのネクタイを
チョコチップでは居所知れず
飼い犬の忠誠心や絶対の愛情
傷に温い海水
飼えぬなら抱くな
と友は憤る
われは人なり我も抱くなり
すきだけどずっとかどうかわからない
正直で不誠実な告白
言いつのることのできない好きだよのかわりに
呼ぶの
二時のタクシー
どうしたらいいんですか独占欲を
ハイカカオチョコ食べる真夜中
心弱さから生まれ来る音楽がえぐり
とどくしみてひらく
朝に