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公衆電話ボックス(????/03/14)

公衆電話ボックスで電話をしている女性がいた。いまどき珍しいなと思いつつ横目で見ていると、中にいる女性と目が合った。そして私に向かって手招きをした。

最初は私ではないだろうと思ってそのまま歩き去ろうとしたのだが、中にいる女性がボックスのアクリル壁を叩いて私を指さした。

なんだろうと思って私が近づくと、ボックスの扉を開けるように中の女性がジェスチャーをした。開けてみると、女性は「あなたに電話ですよ」と言った。

え、と私が戸惑っていると女性が受話器を渡してきた。恐る恐る受話器を受け取り、耳に受話器を持っていき、もしもしと言ってみた。しかし返事はなかった。

あれ、と思って後ろを振り返ると、ボックスの扉は閉められており、外で女性が頭を下げていた。

いたずらか何かだろうかと扉を開けようとしたのだが、なぜか開かなかった。外の女性は、最後に何か言っていたが、声は聞こえなかった。口元では「ごめんなさい」と言ってるように見えた。そして走ってどこかに行ってしまった。

私は扉を開けようと手に力をこめたのだが、どうしても開かなかった。何か様子がおかしかった。そして右手に持った受話器も何故か手から話すことが出来なかった。

私は外を歩いている人に助けを求めるためにアクリル壁を叩いた。しかし外の通行人はまるで私のことなど見えていないかのようにスタスタと歩き去ってしまうのだ。

そんなことをしていたら日が暮れ始め、通りに人の姿が無くなった。はめられたのだ、とそこでようやく気がついた。あの女性もきっとここに閉じ込められていたのだ。そこで代わりとなる人物を探しており、たまたま彼女の姿に気がついた私と交代したのだ。

油断していた。たしかこんな設定のドラマや小説をどこかで見たような気がする。しかしそれが本当にあることだとは思っていなかった。私は困った。本当は今日の夜見たいテレビがあったのだ。それに今日で賞味期限が切れるケーキも冷蔵庫にあるのだ。近日中にやらなければならない仕事もたまっていたし、部屋の暖房はつけっぱなしだった。

しかし公衆電話ボックスから出ることはできないし、電波も何故かつながらなかった。公衆電話に10円を入れたが、何も動かず、10円も返ってこなかった。

次の日になって人通りが多くなった。私は通行人に注意深く視線をやった。

すると一人、私の視線に気がついた男子高校生がいた。私は彼に向かって笑顔で手を振った。彼は最初、自分ではないだろうと思ったのかそのまま過ぎ去ろうとした。私は慌ててアクリル壁を叩き、彼を指さした。高校生は「俺ですか?」と不思議そうに自分を指さしたので、私は「そうそう、キミキミ」と頷いた。

彼に扉を開けるように伝えた。彼は恐る恐る扉を開けた。私は彼に向かって「君に電話だって」と言って受話器を差し出した。彼は眉をひそめ、私の顔を伺っていた。私は内心とても緊張していたが、それを表に出さないようにした。すると彼が受話器を受け取ってくれたので、私は外に出ることが出来た。彼が受話器に向かって「もしもし」と言ったところで扉は閉まった。彼が怪訝な顔で私の方を振り返ったので、私は頭を下げて「ごめんなさい」と謝罪した。そしてそのまま帰宅した。

部屋に戻り、つけっぱなしだった暖房を消した。やれやれ今度からは気をつけようと、冷蔵庫を開けてケーキを確認すると、昨日までだと思っていたケーキの賞味期限は今日までだった。私は嬉しくなって、ぱくぱくとそのケーキを食べた。不幸中の幸いとはこのことだと思った。

この現実はフィクションです日記

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