「ミセス・ハリス、パリへ行く」を観た

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私の好きな小説ベスト3は江國香織の「きらきらひかる」と有栖川有栖の「双頭の悪魔」、そしてポール・ギャリコの「ハリスおばさんパリへ行く」である。
「ハリスおばさん」は講談社文庫の古いものを古本を集めている後輩の家で見つけ、当時「マチルダ」(ボクシングカンガルーをめぐる物語)を読んで面白かったのでギャリコに興味があった私は背表紙のあらすじを読み、そこで泣き(若かったので…)、本文を読みながら号泣し、ドン引きした後輩に「これよかったらあげます…」ともらった。そして最後まで読んでやはり号泣していた。泣くような話ではないと思うのだがとにかく泣いてしまう。お掃除おばさんであるハリスおばさんが、お金持ちの家で見たディオールのドレスに憧れ、頑張ってお金を貯めてパリのディオールに買いに行く…という話なのだ。泣いてしまう。パリのディオールという場所で怯えながらも自分を奮い立たせるハリスおばさんの気持ちがよく理解できた。泣いた。
当時は絶版だったのだがそのあと復刊ドットコムで復刊した単行本を買ったりもした。大好きな作品だ。

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これももう在庫はないのかな?定価でもちょっと高めだったけれど復刊したとき本当に嬉しかった。

なので「ミセス・ハリス、パリへ行く」の映画の話を見た時には「おっ!」と思った。思ったけれど、なかなか観に行く決心がつかなかった。好きなものには腰が重くなるタイプだし、主演のレスリー・マンヴィルはちょっと私のイメージする「ハリスおばさん」ではなかったからだ。私の中のハリスおばさんはイラストのあのハリスおばさんであり、レスリー・マンヴィルはちょっと美しすぎる。解釈が違うかもしれない。でも、何しろハリスおばさんなのだ。観に行きたい…評判もいいし…。
とぐずぐずしていたのだけれど、結局観に行った。映画は原作と違うところもあったし、同じところもあった。レスリー・マンヴィルのミセス・ハリスはとても可愛らしく、ちょっと妖精めいたところのある原作のハリスおばさんと違ってドレスに憧れる一人の女性らしかった。でも美しいドレスへのときめきやそれを欲っするのを尊ぶ心、人の善意を愛する心は、私の大好きなギャリコのものと同じだった。労働者としての立場を強調したエピソードも、もともとのハリスおばさんの持つ「らしさ」が実写になったときには弱まるので、いいアレンジだと思ったし、ミセス・ハリスがお金を貯めるためにお掃除をすること、美しいドレスのためにボタンをつけたりすること、パリの街を掃除すること、憧れの美しいものが労働によってできている、というのも感じられてよかった。あとディオールのドレスは買えなくとも香水やストッキングなら…となるのもコマーシャルとして素敵だ。
一番大きな違いはラストだ。私は原作のラスト、「そんな!」と思いつつもギャリコらしい苦さを感じてしみじみと好きなのだが(それにパリに連絡すれば…とハリスおばさんも思っているし実際そうだろう。あれは「ああなってしまった」のではなくハリスおばさんが「こうする」と選択した結果なのだ)、視覚的な要素の強い映画であのラストは難しいというのもわかるし、あの素敵なミセス・ハリスにあのラストは大変よかったと思う。私は中高年男女のちょっとしたロマンスがめちゃくちゃ好き、というのもあるけど…。それが大きいけど…。ちなみに中高年女性と若い男性の組み合わせも好きなのでパリの居候生活でアンドレとミセス・ハリスが仲良く過ごしていたり、ショーウィンドーで「これじゃだめなの?」と聞かれるところもすごく好きだ。それはさておき。
ときめくもの、好きなものに対して、気後れしても素直に手を伸ばしてみよう。そういう気持ちになるし、そういう気持ちを大切にしてもらえる。素敵な映画だった。観に行って本当によかった。

文庫で復刊してるしKindleもある!ついでに「ハリスおばさんニューヨークへ行く」も復刊らしい!やったー!!!!!!

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