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外縁としてのマトリックス医学再考 「外辺医療」を考える

 マトリックス医学の概略を考える中で、人類学の新しい見解から大きな示唆を得ましたでの少しメモしておこうと思います。

 世界史・人類学に関しては、これまで騎馬民族を起点として全世界史を概説した栗本先生の説が最も納得のいくものだったのですが、これをさらに補強する視点の解説が『反穀物の人類史』(みすず書房)です。
 狩猟採集民から発展して農耕民となり、国家の形成へとつながるという従来の定説?とされる常識を覆すようなスリリングな内容です。本文においては、狩猟採集民を野蛮人とし、農耕民を国家形成の民と対比させ、それらを発展のベクトルにおくのではなく、同時に併存していた、という解釈です。
 この辺りは最近のNHKの大人のための30分でわかる世界史、などでも同様の視点なので、ある種の流行りなのかもしれません。つまり同時に併存することで、いわば「光と闇」的な関係となるわけです。NHKでは境界領域に文明が発達するとも解説されていました。
 そして本文では、闇的な野蛮人の方がいわば有利、お得な立場であるというのです。それゆえにこれらは併存し、確かに世界史においても国名としても隣接して存在します。そしてこの関係が17世紀まで継続し、そこから崩壊していくと解釈しています(ある種17世紀の危機と考えてもよさそうです)。
 ここから帝国主義の時代を経て、現代にいたるわけですが、その過程はここでは述べられません。しかし、このあと「国家」なるものが、金融や大資本とでもいえるものに超克されるようになるのは言うまでもありません。つまり非常に大きな視点では、世界史レベルの中心テーマが大きく変化しているということです。もっというと世界史という枠を超えたものなのでしょう。
 狩猟採集民の歴史については、文字による資料が無いことから、人類学的な考察の方がピッタリなのかもしれません。また国家を超えた議論の場合、経済学や哲学などの分野の方が適するのかもしれません。

 そこで、そもそもの疑問に立ち返ると、人類の国家誕生のストーリーとしては狩猟採集民が、母体つまりマトリックスとして形成されるというわけです。
 そしてそこから異物の結晶化のようなかたちで、むしろ初めは異端的に農耕が開始されるのですが、そこから直線的には展開せず、局所的には狩猟採集に再度転換したり、陰陽的に併存していくことになります。
 世界史での展開を、人間集団での記載と考えれば、医学における展開にも矛盾することはない、と考えることも自然です。つまり一部、揶揄的に「外辺医療」と称される代替医療ですが、これらは伝統医療など医療としての源流を含むことはいうまでもありません。源流でもありながら、現代医療と併存もしているわけです。
 国家というと体系的で、理性的なイメージがありますが、これも現代医療のイメージにどこか同一視されうるのではないでしょうか。それでいて国家は、本書の中では決して発展形態として扱われているわけではなく、むしろ外辺、外縁、周辺としての野蛮人の方が有利であったというのです。17世紀までは。この辺りの事情も、科学革命の開始期と考え合わせると、大いに医学史ともリンクしそうです。

 狩猟採集民による野蛮人(あくまでも本書での表現ですので!)の存在と代替医療、さらには光と闇合わせた形での理解としての統合医療の存在は、とても類似したメタファーにあるような気がします。それゆえに、この外縁、周辺といったキーワードは、まさにマトリックス医学として記載しようとしていること、そのものにも感じています。
 国家というものは光と闇のどちらか、というわけではなく、双子的にあることによってそれが成立している、という視点はまさに統合医療における現代医療と代替医療の関係性そのものではないでしょうか。
 こうした視点からマトリックス医学をさらに拡張して、今後、概略として述べていこうと思います。

反穀物の人類史――国家誕生のディープヒストリー
ジェームズ・C・スコット
みすず書房 2019-12-20


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