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医学・生物学における(割と大きな)パラダイムシフト

 流し読み以降、ずいぶんと長い間積読になっていた「寄生虫なき病」を読了した。最近のマトリックス医学の体系をつくる中で、どうしても気になって再読したのだが、文字通り「寄生虫なき」状況において自己免疫疾患やアレルギー、果てには悪性腫瘍に至るまでの疾患が増加している不気味な状況に戦慄した。しかし、読了してもっとも印象に残ったのは、こうした状況が、最終部の「ヒト生物学」におけるパラダイムシフトを意味するという指摘の部分だった。

 我々は、なにかターゲットになっているものに関して詳細に研究し、科学とりわけ生物学・医学というかたちで記載してきた。しかし、これからはこうしたターゲットに照準を絞るという方法論からシフトしなければならない、という指摘である。
 みたい星を見るために、少し視線をずらしてみる方が目的の星を捉えることが出来る、という例である。いわば周辺性をみる、もっといえば、その基盤・母体・背景との関連性をみる、関係性へのまなざしである。
 マトリックス医学を強調する際に、最も大切している主張であり、意外にも軽く扱われやすい視点でもある。こう指摘していても、ここが本当に注目されるまでには、あと何度のパラダイムシフト(という言葉の使用)をしなければならないのであろう。

 しかし遠い未来においては確実に、この「関係性」へのまなざしが最重要になる時が来る。本書でも、腸内細菌や寄生体は助手席の同乗者ではなく、ハンドルを実際に握る運転者であるという指摘がされている。
 疾患への関与を考える際、自らの遺伝子配列よりも10数倍の強い関与がなされるのが、腸内細菌や寄生体の遺伝子である。我々が文字通り基礎として学んできた解剖生理学など基礎医学の大半は、そうした視点のもとでは、将来的に確実に外縁に追いやられる。  
 パラダイムシフトは静かに確実に進行している。マトリックス(統合)医学は、その前哨に位置するものなのである。統合医療という、いわば外縁が、中心と転倒を起こす日は、そう遠くないのかもしれない。


寄生虫なき病
モイセズ ベラスケス=マノフ
文藝春秋 2014-03-17



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