臨床ファッシア瘀血学(13)皮・肌・身(肉)の3層モデル

 近年の総合診療分野からのファッシアの注目、東洋医学領域における瘀血の重要性、この両者を架橋するような適切なモデルが思いつかないものかと書き始めたのが「臨床ファッシア瘀血学」でした。
 ファッシア瘀血という概念が自分のなかで明晰にならないうちに、色々な可能性を模索しながら妥当なモデルを試行錯誤してきました。それがここ数日でのオリンピック自粛中の発想で一通りのまとまりがついてきたので、少しまとめておきたいと思います。

 ここ数日、展開している定常波をモデルにした「皮・肌・身(肉)の3層モデル」です。これは概ね「肌」におけるファッシアの伝達を中心にしたもので、具体的な物理的な連絡としては「アナトミートレイン」のイメージです。一定の張力により、皮と身の間隙を情報伝達システムである経絡(ファッシア)が「肌」にあたる部位を走行します。そこには当然、神経や血管も並走しており、時に病的産物も形成しうる場でもあります。これがエコーで観察されるファッシア重積などの所見といえそうです。
 そもそも「瘀血」という概念は、中国医学的には血管内の血流の鬱滞を表す「血瘀」と、そうして鬱滞した血が血管外部に漏れだして病理産物となった「瘀血」とに区分されます。この意味で、血管外部に漏れだした血液や、グロブリンなどを含む粘稠性の高い液体によりファッシアの癒着・重積が形成されると考えられるので、これをここでは「ファッシア瘀血」と名付けました。
 これは定常波モデルからすると大気圏中における伝達障害物ともいえるもので、この除去により伝達が正常化するわけです。これはエコー下におけるファッシアリリースとイメージ的にも重なります。
 また想像を広げて、よりマクロの視点へ移すと、この地球における生活の場である大気圏の気候状況が、個体における大気圏たるファッシア部(肌部)と共鳴する可能性も考えられます。(気圧による自律神経の変動などまさにコレですね)つまり、ここを気の流路である経絡とすると、大気との相関を考える伝統的な「小周天」「大周天」の考えも組み込むことも出来そうです。まさに「天人合一」の思想です。 

 3層の介入を考えると、鍼灸一般はやはり「肌」のファッシアなのですが、特にここへの特異性が高そうな方法論が「刺絡」と「ハイドロリリース」のように思います。表層の「皮」は「肌」とともに鍼灸の主戦場ですが、特に皮部治療と称される表皮を対象にしたものが特化していると考えられます。とりわけ角質層の伝導を検出している「良導絡」はその測定の意義がまさに「皮」の伝導ととらえることができます。また打診や接触鍼などの表層の技法や、皮膚運動学を基盤とした技法もここへのアプローチとなります。

 肉を中心とした「身」に関しては、やはり「経筋」の治療です。ヤイトや灸頭鍼などの伝統的な方法論に加え、低周波を用いた筋肉への電気刺激や広くマッサージもここへの介入としてよさそうです。当然これらは厳密に区分されているわけではないので、体性・自律神経反射等を介して内臓疾患にも影響しますが、古典的には臓腑への連絡はないとされています。臓腑へは経絡システムとしての経別の概念を援用する必要があります。補足として「身」としたのは、概ね「肉」なのですが、腸管へのマッサージ的な技法もあり、肝や脾、膀胱や腎への直接アプローチも可能なので臓腑や腱・骨格等も考慮に入れて「身」としました。

 解剖的な意義や介入技法との関連は、概略的には以上のような理論となります。これを具体的な治療プロセスに当てはめると「栄養」「伝達」「特異性」の3ステップとなります。栄養はこれら3層への十分な栄養の補給、伝達は主に肌としてのファッシアでの伝達の改善(鍼灸・刺絡・ハイドロリリース等)、そして特異性は前の二つの健常性をうけて問題となっている臓器や組織への直接的なベクトル性の付与という感じになります。方向付けの方法論としては、ホメオパシーや経穴学(経絡現象学)などが有力な方法論です。

 具体的な方法論は、症例との関連をつけて後日書いてみたいと思います。ここまでのまとめは以下の通りです。

皮:外界との接触面(センサー)・・・皮部治療・良導絡測定・打鍼・接触鍼・皮膚運動学

肌:皮と身の緩衝地帯・・・鍼灸治療・刺絡療法・ハイドロリリース・筋膜リリース

身(肉):運動器と臓腑・・・経筋治療・灸頭鍼・低周波・高周波治療・干渉波

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