クォークも重ねあわさる
1970年頃に知られていた素粒子は、電子$${e}$$、ミューオン$${\mu}$$、ニュートリノ$${\nu}$$(電子型$${\nu_e}$$とミュー型$${\nu_{\mu}}$$)、アップクォーク$${u}$$、ダウンクォーク$${d}$$とストレンジクォーク$${s}$$のみでした。そして、以下のような組を考えると、当時、知られていた現象をうまく説明することができました。
$${\begin{pmatrix} \nu_e \\ e\end{pmatrix}}$$、 $${\begin{pmatrix} \nu_{\mu} \\ \mu\end{pmatrix}}$$、 $${\begin{pmatrix} u \\ d\end{pmatrix}}$$
例えば、原子核が電子を放出するベータ崩壊は、以下のような反応になります。
$${n \rightarrow p + e +\bar{\nu_e}}$$
これをクォークのレベルで考えると中性子$${n}$$は$${udd}$$からなり、陽子$${p}$$は$${uud}$$からなっているため、$${d}$$クォークが$${u}$$クォークに変換されるということが分かりました。
$${d \rightarrow u + e +\bar{\nu_e}}$$
また、$${\pi^-}$$中間子は$${d\bar{u}}$$からなっているため、
$${\pi^- \rightarrow \mu+\bar{\nu_{\mu}}}$$
は
$${d+\bar{u} \rightarrow \mu+\bar{\nu_{\mu}}}$$
と考えることができます。また、$${\mu \rightarrow \nu_{\mu}+e+\bar{\nu_e}}$$のような反応もあって、$${(e, \nu_e)}$$、$${(\mu, \nu_{\mu})}$$、$${(u, d)}$$の3対を組み合わせることによって、弱い相互作用による反応を説明することができました。
ところが、$${K}$$中間子の崩壊の現象が見つかりました。$${K}$$は$${u}$$クォークと$${s}$$クォークから作られているため、$${u}$$クォークと$${s}$$クォークを結合しなければなりません。アップクォークはダウンクォークと対になりますが、$${K}$$中間子の崩壊ではストレンジクォークと対になっています。
$${u+\bar{s}\rightarrow\mu^+ + \bar{\nu_{\mu}}}$$
ここで、$${d}$$クォークと$${s}$$クォークは重ね合わせの状態になっているとすると、以下のように考えることができます。
$${\begin{pmatrix} d' \\s'\end{pmatrix}= \begin{pmatrix} \cos\theta_c & \sin\theta_c \\ -\sin\theta_c & \cos\theta_c \end{pmatrix}\begin{pmatrix} d \\s\end{pmatrix}}$$
ここで$${\theta_c}$$はカビボ角(Cabibbo angle)といわれるクォーク混合角です。このクォーク混合という重ね合わせによって、$${u}$$クォークと$${d'}$$クォークが対になっていると考えることができるようになります。
そして、$${s}$$クォークにも対となるクォークがあるべしということで、新しいクォークであるチャームクォークの存在が予言されます。これで、クォークの組が2つ$${(u, d)}$$、$${(c, s)}$$とレプトンの組が2つ$${(e, \nu_e)}$$、$${(\mu, \nu_{\mu})}$$となってめでたしめでたしとなるのですが、ことはそう簡単にはならず、クォークの組は3つあるといいだしたのが、小林誠と益川敏英の両氏です。