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2. PoWの課題と解決【東大AI研究者のノート】技術者でないあなたもブロックチェーン技術が与える社会インパクトを正しく理解する

前回までのあらすじ

こんにちは!普段は東京大学松尾研究室ってところでAIの研究やっているたむこうです.今回は【東大AI研究者のノート】技術者でないあなたもブロックチェーン技術が与える社会インパクトを正しく理解する ~1. ブロックチェーンとは?~の続きの記事になります.

3. Proof-of-Workの課題

Proof-of-Workには,以下のような幾つかの課題があります.

1. エネルギーを過剰に消費する
2. 処理時間が必然的に遅くなる
3. マシンの処理能力や資金力などの値に非線形にハッシュパワーが得られてしまう
4. 十分な規模と多様性を獲得するインセンティブを保ち続けられない場合,ハッシュレートが下がり過半数を取ることが容易になってしまう可能性がある

Proof-of-Workのシステムを採用しているため,計算のための電力を過剰に消費してしまう他,新たなblockを追加するためにBitcoinでは10分と調整されているため,既存の決済方法(クレジットカードなど)に比べてはるかに処理時間が遅いという問題があります.これがBitcoinは決済に使われることはないと言われる所以です

またビットコインのマイニングに特化したASIC(特定目的の集積回路, ビットコインが採用しているハッシュ関数SHA256に最適化されたもの)などの存在から,マシンの処理能力や資金力の偏りのせいで,かかるコスト(投資や労力)に対して非線形にハッシュパワーが得られてしまいます.このことにより,一部の資産家や国家などに対してより有利に働く可能性があり,非中央集権的考え方に反します

そして,ブロックチェーンによって形成された経済圏において,十分な規模と多様性を獲得する持続可能なインセンティブがない場合,マイニングする人は減り,ハッシュレートが下がった結果簡単に過半数を獲得できてしまう可能性が否めないというシステム設計における課題は大きな障壁になるでしょう.

Proof-of-Workの抱える問題に対して,いくつかの代替案が用いられており,以下で説明します.


1. Rippleのような中央機関が発行する仕組みを取り入れる
2. Proof-of-Stakeを用いる

4. Ripple: 中央集権的仕組み

引用元: https://alchembook.com/wp-content/uploads/2016/01/Ripple.png

Rippleは,ビットコインのようにマイニングによって通貨が発行されるわけではなく,Ripple社があらかじめ決められた総量のRippleコインを発行しています.Rippleは様々な通貨の取引における仲介として用いられることが期待されており(ブリッジ通貨という),市場に流通させる量をマーケットに合わせて自動的に(恣意性を排除して)行われている.承認制(Proof of Consensus)を用いたRipple社による中央集権的な制度を取ることによって,処理速度の問題(約4秒で決済,手数料も安い)や電力消費の問題を解決しています
Rippleはブロックチェーンの仕組みというよりはより広義な「分散型台帳」を利用しており,Proof of Consensusの仕組みは中央集権的な仕組みとも言えます.結局,Ripple社や承認された参加者に対する信用が要求され,【東大AI研究者のまとめ】技術者じゃないあなたもブロックチェーン技術を簡単に理解する ~1. ブロックチェーンとは?~で説明した中央集権的なシステムの抱える問題は解決されておらず,ブロックチェーンの基本概念である非中央集権的ではないという理由で批判を浴びることもあります

ただ,ブリッジ通貨としての有用性はBitcoinなどよりも優れていることから,中央集権的でないからといって意味がないというわけではないと言えるでしょう.

[参考]
- リップルネットワークの基盤「XRP Ledger」とは?
- リップル(Ripple)の仕組みとその特徴とは?他の仮想通貨との違いも詳しくご紹介

5. Proof-of-Stake

Proof-of-Stakeとは,マイニングにおける計算労力を基準に合意を行うProof-of-Workと異なり,資産保有量(Stake)に基づき合意が行われる仕組みです.

PoSは文字通り訳すならば「資産保有による証明」という意味であり、コインを持っている量(Stake)に応じて、ブロック承認の成功率を決めることを基本としています。イメージとしては、PoWは保有する計算パワーである仕事量(Work)が大きい人ほどブロック承認の成功率が高いことに対して、PoSは資産保有量(Stake)が大きい人ほどブロック承認の成功率が高くなています。
引用元: Proof of Workの欠点を克服させた合意形成アルゴリズム「プルーフ・オブ・ステーク」

PoSにおけるマイニングは鋳造(minting, forge)と呼ばれ,コイン保有量とそのコインの保有期間の掛け算などStakeに基づいた確率的なブロック承認が行われます.

Proof-of-Stakeは,上述したPoSの以下のような問題を解決することが期待される.
1. エネルギーを過剰に消費する
2. 処理時間が必然的に遅くなる
3. マシンの処理能力や資金力などの値に非線形にハッシュパワーが得られてしまう
4. 十分な規模と多様性を獲得するインセンティブを保ち続けられない場合,ハッシュレートが下がり過半数を取ることが容易になってしまう可能性がある

1, 2, 3においては,根本的に計算労力を基準にしないことによりProof-of-Workを用いないことによって解決されます.また,4に関しても,Proof-of-Stakeはより優れているとされます.なぜなら,
- 過半数(51%以上)のコインを獲得しないと改竄することができず,攻撃にかかるコストがより高い
- そもそも過半数を獲得したコインを改竄することは,自らの資産価値を減らすことになるため,メリットがない

という理由があります.しかし,利益度外視での攻撃を行う参加者が出てこないという保証はなく,Proof-of-Stakeも完全な仕組みではないというのが実際のところです.

一方Proof-of-Stateの欠点として,
1. コインを保有することに価値があるため,流動性が失われる
2. 過半を支配する可能性が高まると,コイン保有者が攻撃のリスクを恐れてコインを売却する.結果としてコインを購入しやすくなり,より攻撃しやすくなる可能性がある
3. コインを保有し放置していても報酬が得られるため,一番長いblockchainにブロックを繋げていくインセンティブが低い.無差別に取引を承認する可能性もあり,blockchainが収束しない可能性がある(不正なブロックを承認すると罰を受けるSlasherという仕組みを導入することなどが解決策として挙げられている)

なお,Ethereumは,現在はProof-of-Workを用いていますが,将来Proof-of-Stakeに移行する予定とされています

[参考]
- Proof of Workの欠点を克服させた合意形成アルゴリズム「プルーフ・オブ・ステーク」
- Proof of Stake(PoS)とは?仕組みやデメリット、イーサリアムの移行予定など

6. Bitcoin, Ripple, Ethereumの整理

以上で説明したように,Bitcoin, Ripple, Ethereumの違いの一つは分散合意のシステムがどのようなものかということです.(Ethereumはさらに通貨という枠組みを超えて,次世代のスマートコントラクトと非中央集権型アプリケーションのプラットフォームとしての役割を果たしている点で,大きく異なる)
ブロックチェーンアプリケーション開発の教科書では以下のようにBitcoin, Ripple, Ethereumの違いを整理しています(*一部編集).

[参考]
- ブロックチェーンアプリケーション開発の教科書

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