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4. ICOと規制【東大AI研究者のノート】技術者でないあなたもブロックチェーン技術が与える社会インパクトを正しく理解する

前回までのあらすじ

こんにちは!普段は東京大学松尾研究室ってところでAIの研究やっているたむこうです.今回は【東大AI研究者のノート】技術者でないあなたもブロックチェーン技術が与える社会インパクトを正しく理解する ~3. Ethereumの仕組み~の続きの記事になり,ICOと規制周りについてまとめた記事です.

10. ICOとは?

ICOとは,Initial Coin Offeringの略で,クラウドセール,プレセール,トークンセールなどと呼ばれます.企業が独自のトークンを発行し,投資家は仮想通貨での購入を行うといった新たな資金調達方法の一つだとも定義されます.ICOの一連の流れは以下の図の通りです.

ICOのメリットは,ICOとは?仮想通貨を利用した資金調達法の解説と情報まとめにて以下のように整理されます.

1. 資金調達側のメリットとデメリット

- メリット
1. 短期間に多額の資金調達ができる可能性がある
2. 最初に多くの資金を用意する必要がない
3. 基本的には調達資金の返済は不要
4. 業者を挟むことなく,投資家から直接資金を調達できる
- デメリット
1. プロダクトを投資家に認めてもらう必要がある
2. 失敗すると投資家が大きな損失を被る必要がある

2. 投資家側のメリットとデメリット

- メリット
1. 少額で世界中のICOに参加することができる
2. 投資した事業が成功すると多額のキャピタルゲインが期待できる
3. 個人でも支援したい事業に直接投資することができる
4. 仮想通貨を利用するため、ネット上だけで実施が可能
5. 企業の仮想通貨によっては特典等がついている場合がある
- デメリット
1. 投資した事業が失敗すると資産を失う可能性がある
2. 投資した事業の運営者が,集めたお金を持っていなくなる可能性がある
3. 事業が成功しても,トークンの価値がつかなければ利益を得ることができない
4. その事業が成功する保証はどこにもないので判断が難しい

11. トークンの種類

発行するトークンには以下の3種のタイプがあるとされる.


1. 通貨型トークン
特定のサービスにおいて利用できるトークンを発行し,そのユーザー間の支払いにもこのトークンを利用してもらいます.サービスにおける経済圏を形成することができ,通貨を保有するコミュニティはその経済圏を成長させるインセンティブを持つことになります.

2. 配当型トークン
特定のサービスや昨日で上がった収益の一部を,トークン所有者に分配していくようなトークンです.

ただ,これは既存の株式や金融商品と近く,金融商品取引法上の規制が適用されることが増えていく
引用元: お金2.0 新しい経済のルールと生き方

3. 会員権型トークン
トークンを所有している人が特別な優待などを受け取ることができるトークンです.

12. 規制

ICOは,短期間で大きな資金を調達することができるなどの大きなメリットもありますが,それ故詐欺などの重大な問題が発生しているのが現状です.各国および日本の金融庁は,ICOを規制する方針を表明しています.

以下2017年の世界のICO規制事情です.

【2017年の世界のICO規制事情】
7月  | アメリカでICOが規制される
      ▶認可を受けないICOによる資金調達は、証券取引法に基づく処罰の対象であると発表
8月  | シンガポールでICO規制が検討される
      ▶シンガポール金融管理局(MAS)証券先物法の対象となるICOを規制を発表
9月  | 中国でICOが規制される
      ▶中国金融当局によって、ICOで仮想通貨を利用した資金調達を禁止
10月 | 韓国でICOが規制される
      ▶韓国の金融規制当局はICO禁止を発表。それにともない仮想通貨の信用取引も禁止
10月 | 日本でもICOの規制が検討される
      ▶金融庁がICOについて利用者及び事業者に対する注意喚起を発表
引用元:ICOとは?仮想通貨を利用した資金調達法の解説と情報まとめ

中国や韓国はICOに対して厳しい規制(禁止)を行ないましたが,日本はブロックチェーンの発展のために比較的寛容な姿勢を見せています.

2017年10月,金融庁はICOについて利用者及び事業者に対する注意喚起を発表した内容は以下の通りです.

ICO事業に関係する事業者においては、自らのサービスが資金決済法や金融商品取引法等の規制対象となる場合には、登録など、関係法令において求められる義務を適切に履行する必要があります。登録なしにこうした事業を行った場合には刑事罰の対象となります。
引用元: ICO(Initial Coin Offering)について~利用者及び事業者に対する注意喚起~
ICO において発行される一定のトークンは資金決済法上の仮想通貨に該当し、その交換等を業として行う事業者は内閣総理大臣(各財務局)への登録が必要になります。また、ICO が投資としての性格を持つ場合、仮想通貨による購入であっても、実質的に法定通貨での購入と同視されるスキームについては、金融商品取引法の規制対象となると考えられます。
引用元: ICO(Initial Coin Offering)について~利用者及び事業者に対する注意喚起~

以上のポイントは,

1. 発行するトークンが「仮想通貨」なのか
2. 仮想通貨交換業に該当するのか

という論点です.

13. 法的な意味での「仮想通貨」とは?

金融庁HP:仮想通貨関係にある資金決済に関する法律第1章第二条において,仮想通貨は以下のように定義されています.

1. 物品を購入し、若しくは借り受け、又は役務の提供を受ける場合に、これらの代価の弁済のために不特定の者に対して使用することができ、かつ、不特定の者を相手方として購入及び売却を行うことができる財産的価値(電子機器その他の物に電子的方法により記録されているものに限り、本邦通貨及び外国通貨並びに通貨建資産を除く。次号において同じ。)であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
2. 不特定の者を相手方として前号に掲げるものと相互に交換を行うことができる財産的価値であって、電子情報処理組織を用いて移転することができるもの
引用元: 資金決済に関する法律

1に該当する仮想通貨を第一号仮想通貨,2に該当する仮想通貨を第二号仮想通貨といいます.第一号仮想通貨はBitcoinなどの通貨であり,第二号仮想通貨はそれらと不特定多数を相手として交換可能であるものであるとされています.ここでポイントは不特定にという点です.

例えばVALUなどは,Bitcoinと交換可能であり,第二号仮想通貨であって,仮想通貨交換業に当てはまる可能性がありますが,VALUは会員登録をした内部のみでの利用であるため,「不特定のものに対して使用できる」に該当しないと考えられているようです.

14. 「仮想通貨交換業」とは

Biflyerのような仮想通貨交換業を行うためには,登録(認可)が必要です.
金融庁HP:仮想通貨関係にある資金決済に関する法律第1章第七条において,仮想通貨交換業は以下のように定義されています.

この法律において「仮想通貨交換業」とは、次に掲げる行為のいずれかを業として行うことをいい、「仮想通貨の交換等」とは、第一号及び第二号に掲げる行為をいう。
1. 仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換
2. 前号に掲げる行為の媒介、取次ぎ又は代理
3. その行う前二号に掲げる行為に関して、利用者の金銭又は仮想通貨の管理をすること。
引用元: 資金決済に関する法律

ここで大きな争点となるのは,ICOおよびトークンの発行は仮想通貨交換業であるかということである.
ICOと仮想通貨交換業において,以下のように説明されています.

今後、日本でもICOをしようとするスタートアップが出てくるのではないかと思うのですが、こういったトークンも改正資金決済法上の仮想通貨なのだとすると、まさにさきほどの「一 仮想通貨の売買又は他の仮想通貨との交換」を「業として」やっているのではないかと思いますので、個人的には、仮装通貨交換業の登録が必要だと思います。
引用元: ICOと仮想通貨交換業

ICOのように,パブリックなトークンを発行する場合は,やはり仮想通貨交換業に該当してしまうようです.現在日本では仮想通貨交換業は,取引所を想定した規制になっていますが,ICOに関しても仮想通貨交換業に該当するという考え方であれば,ICOを行いたいスタートアップ企業なども厳しい規制の対象になってしまうことになり,事実上スタートアップが日本でICOをすることは無理でしょう.一方で,VALUのような閉じたネットワークにおけるプライベートトークンであれば,仮想通貨交換業に該当しないためスタートアップでも可能ですが,資金調達という可能性はほぼありません


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