「前科者は送還してしまえば良い」というのは政府の方針にも反します
2021年11月30日、産経新聞が入管リークと思われる記事を発表、2021年5月に廃案となった入管法案を再度提出するとのこと。その記事の中で、退去強制令書を出されたが仮放免中、難民申請中の外国人男性が刑事事件で逮捕されたという事例を挙げていました。
刑務所で刑期を終えた方を収容し続けることは、戦前の治安維持法による予防拘禁よりひどい、とんでもないことだ、ということは、以前こちらにも書かせてもらいました。
今回は、前科があるということだけで、出身国へ送還するのは行きすぎだということを述べてみたいと思います。
政府広報 出所者は社会内で受け入れて更生を
様々な理由で罪を犯して服役してしまう方は、いつの時代でも、世界のどこにでも存在します。
そういう人たちのうち、死刑に処せられたり一生刑務所から出られない人の割合はごく僅かで、ほとんどの人たちは一定期間経過後は刑務所から出て来ます。
そういう方達の再犯を防止するためには、刑務所内での教育も重要ですが、出てきた後の受入も重要です。
以下の政府広報でも、
ことが重要だとしています。
犯罪防止のための国際協力
では、刑務所から出た後は、「仕事」と「住居」を整えることが重要なのは、日本国籍を有する人、あるいは滅多なことでは退去強制されない特別永住の在留資格を有している方だけなのでしょうか。
その他の外国人は、本国に送還すれば良いのでしょうか。日本に家族がいたり、あるいは長期間滞在して生活の根拠が日本にある、本国では迫害を受ける危険があってとてもまともに生活することができないような人は、送還されたら「仕事」も「住居」もままならないのです。
また、難民申請者は、「該締約国の安全にとって危険であると認めるに足りる相当な理由がある者または特に重大な犯罪について有罪の判決が確定し当該締約国の社会にとって危険な存在となった者」でなければ送還できないのです(難民条約33条2項。この条文は、さらに相当厳格に解釈されなくてはならないことは、UNHCRの2021年4月9日意見概要を参照)。
2021年3月に京都で行われた第14回国連犯罪防止刑事司法会議(京都コングレス)で採択された京都宣言では、次のとおり述べられています。
つまり、
・犯罪防止のためには社会内の環境を整えるのが重要(宣言38)
↓
・犯罪防止のためには国際協力の促進が重要(宣言5)
というのですから、刑務所から出た外国人についても、「仕事」「住居」を中心とした社会内環境を整えるべく、国際協力をするのが重要ということになります。
ですから、「前科者は本国に送還してしまえ、後のことは知らん。」という態度は、京都宣言に反し、京都コングレスのホスト国としては大変恥ずかしいものといえます。
ヨーロッパ人権裁判所や国連規約人権委員会では
前科があることを在留特別許可をするか否かの消極要素の一つとすることはやむを得ないでしょうが、送還をするかどうかはそれだけで決められるものではありません。
ヨーロッパ人権裁判所や国連規約人権委員会では、前科が相当多数ある人であっても、「比例原則」という基準を用いて、その人が送還されることによって得られる国家の利益と、失われる利益(家族結合)を天秤にかけ、後者が上回る場合は強制送還は違法であるという判断をするのが定着しています。先進国では当たり前の判断手法と言えます。
このことは、2021年4月21日、衆議院法務委員会で参考人として意見を述べたときにもお話し、資料も配らせてもらいました(資料⑨)。
このように、前科者=危険だから排除しよう、という単純な図式は、先進国での裁判例など以外に、政府広報や日本がホスト国となった京都コングレスでの京都宣言にも反するのでした。
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