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「そこが知りたい! 入管法改正案」について その7(完) 「保護すべき者を確実に保護」できない在留特別許可

最後です。

「4 入管法改正案の概要等(1)保護すべき者を確実に保護」で、

➁ 在留特別許可の手続を一層適切なものにします。
・在留特別許可の申請手続を創設します。
・在留特別許可の判断に当たって考慮する事情を法律上明確化します。
・在留特別許可がされなかった場合は、その理由を通知します。

と書かれています。

「申請手続を創設」?

現行法では、確かに法律上は在留特別許可を「申請」することはできませんでしたが、在留特別許可を認めてほしい人は自ら出頭したり、摘発後に日本に残りたいという意思表示をすれば、在留特別許可するかどうかは判断されています。
なので、法律上「申請」とすることは、現在の運用を形式的な整備する以上の意味はありません。あたかも、「改善」したかのような表現はミスリードです。

「考慮事情を明確」?

法案では確かに考慮事情が記載されました(法案50条5項)。
ですが、その列挙されている考慮要素は

  1. 在留を希望する理由

  2. 家族関係

  3. 素行

  4. 本法に入国することになった経緯

  5. 本邦に在留している期間

  6. その間の法的地位

  7. 退去強制の事由となった事実

  8. 人道上の配慮の必要性

  9. 内外の諸情勢

  10. 本邦における不法滞在者に与える影響

  11. その他の事情

です。要は、総合的に諸事情を考慮すると書いているのと変わりないですね。とくに、最後の2つ。「本邦における不法滞在者に与える影響」「その他の事情」。何でもありです。

理由の通知?

また、理由を通知しますとありますが、これまで何も無かったのがおかしいので、当たり前のことです。当たり前のことをやることになるのは、まあ、良いのですが。
ただ、現在でも裁判を起こせば、「裁決・決定書」というのが証拠で出てきます。下図は実際に訴訟になって証拠として出されたものです。

理由は【在留を特別に許可すべき事情は認められない。】というだけで、何もわからないですね。これまでの入管実務からすると、理由を告げるといっても、これと同程度のものになるのではないかと思います。あまり威張れたものではないです。

1年を超える実刑判決を受けた人は原則不許可について言及無し

法案では、1年を超える実刑判決を受けた人は原則として在留特別許可を認めない類型にしているのですが(法案50条1項)、「そこが知りたい! 入管法改正案」には言及がありません。
先にも書いたとおり、日系人が家族で来たとき、環境になじめず、非行に走ってしまった子ども達がいます。受入側が全く配慮していなかったことを、「ミスター入管」坂中英徳さんも認めています。

刑事前科があることが消極事情の一つとして考慮されるの当然でしょうが、原則不許可とすることは行き過ぎです。

「保護すべき者」の範囲を決めるのは相変わらず入管

「そこが知りたい! 入管法改正案」では、入管法改正の基本的な考え方として「保護すべき者を確実に保護」を1番目に挙げていますが、ここでいう「保護すべき者」がどのような人たちなのか、入管がいかようにも決められるのです。
「この人だけは保護する。」と決められるなら、その人たちを確実に保護できるのは当然です。確実に保護できる人だけを「保護すべき者」と認めれば良いのですから。

比例原則を適用すべき


ヨーロッパ人権裁判所の裁判例や自由権規約委員会の決定を見ると、在留特別許可を認めるべきか、退去強制すべきかを決するのは、
・送還されることによって侵害される当事者の利益
・送還することによって得られる国の利益
を天秤にかけています。後者が上回る場合にはじめて強制送還が許容されるのです。これを「比例原則」といいます。
以下のような実例があります。家族の結合はこれほどまでに重視されるのかと驚かされますが、これが先進国の人権レベルなのです。
「保護すべき者」は自分たちの尺度だけで決めるのではなく、国際人権規約などのルールに従って判断すべきです。

2021年4月21日 衆議院法務委員会で筆者が配布した資料
2021年4月21日 衆議院法務委員会で筆者が配布した資料


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