鍼灸師に贈る経営者目線の推薦図書10選

割引あり


はじめに

 一般的な経営に関することを経営指南というカテゴリーでご紹介します。そもそも経営とは何か?というある種哲学的なことへと理論が飛躍しがちですが、ここではシンプルに「継続して事業を営むために行うすべてのこと」と考えてください。そのために私が役に立った、頼りになる、さらに深く考えるにはという書籍をご紹介します。

 もちろん好みや考え方、経験によって不要、ここでは物足りなさを感じるものもあるでしょう。しかしながら、私も二十年以上の鍼灸臨床と五百冊以上の書籍との出会いは、みなさんのこれからの無駄な読書、無駄な情報、余計な迷いを減らすには役立つことと自信を持ってお話しできます

治療のみならず経営に関する多数の蔵書

 当院は何人ものスタッフが在籍していたことがあります。(数年で卒業の制度がありました)そのスタッフにとって唯一の不幸が、書籍による目利きという能力が高まらなかったといえます。これは良い本ですね、と言われることがあるのですが、それは私が必要だという判断があり、さまざまな類書と比較して残したというフィルターが働いているのです。ここでも私のフィルターを通過し、文字通り座右の書として置きたいものから、老婆心ながら足りない情報があるのではないかと推測して紹介するものまで厳選して十冊超のご案内となります。

 私が儒学の勉強に参加したとき、ことあるごとに言われた言葉があります。「読書百遍意自ずから通ず」というものです。わかってもわからなくても、100回を超えるほどたくさん読むべきだということです。

 そして私はいつの頃からか実感することが増えました。「同じ本を読んでいても違う印象を受けるときがある。これは成長だ。違う本を読んでいても同じ印象を受けるときがある。これは真理だ。」そのように思ったときから、書籍による学びはかなり割の良い、お得な、素晴らしい自己投資だと思ったのです。決して読書が好きというのではありません。ただ得ることが多く自分で考えては思いつくまで時間も労力も膨大なエネルギーがかかるのではないかと痛感したのです。

 みなさんはとりあえず鍼灸院の経営という視点でこの記事に興味を抱いていただいたとは思うのですが、学ぶことが実利につながることを実感してほしいと思います。生き方、考え方が変わるものです。どうか、ここから始まる成功のストーリーをご自身の鍼灸院の成功のみならず業界全体に波及できるようにご協力いただければ幸いです。

読書案内


経営指南

『起業家精神に火をつけろ!』マイケル・E・ガーバー

 本書はタイトルで損をしていると思うのですが、しっかりとした自営業者の教科書です。事業計画、マーケティング、財務、マネジメント、顧客満足や見込み客など幅広く言及しており、鍼灸師が自院のみでやっていく場合(多店舗や複数事業の経営者というよりは純粋な自営業者)は、この本1冊で十分だと思います。それでも治療のことしか頭になかった鍼灸師さんにとっては、本書の通りにやる必要が多く、開業前であっても将来をイメージするには良書です。ただ唯一の欠点が米国の書籍の翻訳ですので、開業届や税務はこの書籍から学ぶのは難しいです。それでもビジネス(商売)の基本的な考え方は万国共通ですので、自営業(鍼灸院経営)にとっては素晴らしいガイドラインであることには間違いありません。

 基本的なことを押さえつつ、どのような意味があって何が必要かを順を追って展開しています。たとえばキャッシュパワーという考え方があります。自由になるキャッシュを持ち、ビジネスを通じてより速く動かすほど財務の運動量すなわちキャッシュパワーは大きくなります。このキャッシュパワーを安定的に拡大路線に導くことが経営者に大切な視点のひとつとなります。そして、そのキャッシュパワーを生み出すためのルールについて言及しています。資産を減らす、負債または資本を増やす、売上を増やす…など書かれています。一般的な鍼灸院のビジネスモデルは極めて単純で本書で当てはまる点を重点的に学び実行に移すことは有益だと考えます。

 よく鍼灸院経営の話しになると、リスクを恐れ安い費用で開業を勧める向きがあります。それはおそらく無目的的に思いつく限り費用を使ってしまい、キャッシュパワーに影響無いか、マイナスの効果を生むことになると考えるからでしょう。一般的にビジネスを正しく見渡すにはそれなりに費用をかける必要がでてきます。それを「なんでも安く済ませるからリスクが減って大丈夫」ということではありません。鍼灸院で回数券を売ることのメリットで手持ち資金を潤沢にしていおくという意見があります。たしかに本書でもそのような方法は紹介されています。その一方でそれほどランニングコスト(運転資金)が逼迫するのであれば、むしろ、そもそも鍼灸院の開業はすすめないでしょう。本書を通じてビジネスの概要が俯瞰できれば、自転車操業が良いことだとは考えにくいからです。

 いずれにしても、既存の鍼灸師が開業がどうにかなっているというフワフワした内容で鍼灸院を開業しようとするよりも、数倍得ること、考えることがあります。本書をしっかり読み込んで鍼灸院経営をイメージすることで成功の確率を高められるでしょう。

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