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街の人 be anbisious 宝くじ

 シャロ勉合宿に4日出遅れた。微力かもしれないが自分の生活で続けられるように、やっていくだけだ。合格したいなら、それだけだ。
 いつもの取引先に行くのに、いつもすいている道が珍しく混んでいた。道を曲がると、今度は長蛇の列。取引先が入っているビルの隣のスーパーはもうとっくに開いている時間なので、開店を待っているというわけでもなさそうだ。バス待ちか?それにしては荷物が軽装すぎる。よく見てみたら、小さな宝くじ売り場に続く、ウネウネとした長蛇の列だった。
 たしかに年末ジャンボの季節だが、こんなに並ぶものか不思議になり、思わず担当者にあった第一声で、尋ねてしまった。聞けば、担当の浦崎さんは、窓越しに行列を指さしながら、ニヤリとほくそ笑んで「去年出たのよ、ここから八億」と、謎の小声で教えてくれた。
「はぁ。」私は呆れてしまった。去年出たなら今年はここからでないと思ってしまうのは、社労士試験の沼に浸かり過ぎだろうか。私は今日、この会社に来るのに、大変な苦労をした。いつも開いている来客用駐車場が使用されていたので、私はちょっと歩く銀行の有料パーキングに入れるしかなかった。しかし見たところ、この会社の来客は、見渡す限りは私一人。おそらく宝くじ目当ての客数人の不束者だろう。路上駐車する車を対向車線を気にしながら、マリオのカメの甲羅の様に避ける必要もあった。もう一回り上行く不束者の仕業だろう。あんた達、それでほんとに今から神に選ばれし一人になろうとしているのかい。素行が悪すぎる。交通ルールも守れないモラルもない人間がどうして、八億の使い手に選ばれると思うのか、どの面下げて幸運授かろうとしているんだ、厚かましい。私は説教したい衝動に駆られた。

 「よく並ぶよね、こんな寒い中」浦崎さんは、まだ行列をジロジロ見ながら言った。私も一緒になって行列を眺めた。まだ10時前というのに、スーツ姿のいかにも働き盛りという感じの男性から、エプロンをつけている主婦っぽい女性、驚いたことには車椅子のお客も何人かいた。働いている人は時間休とっているとも思えない。こんな寒い日に郊外までわざわざやってきて、何時間も並ぶ根性があれば、他に何かもうちょっと形になりそうな気がするが、どうだろうか、とまた私は説教したい衝動に駆られた。

「8億も当たったらこわいな、30万…いや、15万、10万でいいや!そのくらいがちょうど嬉しいよね!当たったらこいあみさん、そこのお店のステーキごちそうしてあげるね!」「浦崎さん、並んでくれるんですか」「今日はならばんよ!」浦崎さんは、行列の向こうのちょっとお高いステーキ屋さんを指して言った。「いいですねぇ!」「私達えらいよねぇ」「あの人、働いた風をして会社に帰るんですかねぇ」私達は行列をネタにしながら、いつもの商談に入った。1時間はかかっていないと思うけど、私が商談を終えて、外に出てもまだ行列は続いていた。それどころか、さっきよりも増えていた。宝くじが当たったところで、幸せにはなれないと書いてある本を読んだばかりだから、紹介してやりたい衝動に駆られたが、いかにも時間の無駄だろうから、その感情は2秒ほどで引いた。クラーク博士の教えをふと思い出す。boys be ambisious.若者にばかり大志抱かせている場合か大人たち。人生100年時代、そりゃお金の心配は尽きないけれど、その厚かましさと時間と資金と並ぶ体力があったら、それに教養を着けてごらんなさいよ。
 シャロ勉合宿、絶賛開催中。私は私のやるべきことを黙々と、多少遅れても、多少うまく行かなくても、続けていく。


 





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