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『文壇の華浴衣』調査報告其の弐

【前回のあらすじ】
一冊の古雑誌にあった広告『文壇の華浴衣』
その謎を追い、様々な手がかりを得た果てに手元へやってきたのは、華浴衣の謎を解き明かす数冊の古雑誌であった。そこにあるのは答えなのか、それとも――!?

 というわけで、どうもどうも来福です。前回、ひょんなことから目にしたこの『文壇の華浴衣』の謎を追いかけるべく、様々に動いた結果、『文藝春秋』の昭和四年八月号(第七年八月号)・昭和五年六月号(第八年六月号)・昭和五年八月号(第八年八月号)の三冊を取り寄せることが出来ました。
 今回はその三冊に掲載されていた華浴衣の情報、前回から追ってご回答頂いた記念館様のお話、そして今後の調査進行について、お話しをしたく思います。何卒お付き合い頂けたら幸いです。

 なお、前回に引き続き、今回もTwitterから様々ご協力頂いた二方、そして新たに今回から更にもうお二方のご助力を頂けることとなりました。

秦月結(@hanashigu_ume)
セイ(@050304Sei)
midori(@haru_3d)
六月一日/くさか(@kusaka6_1)

 加え、私 来福ふくら(@kohuku3112)の五名で調査を行っていくことになります。
 
 そして、各記念館様にも引き続き感謝申し上げます。今後の新発見等に繋がりますよう、尽力してまいりたく思いますので、お気が向いたら及びお手隙の際、ご助力を頂けたら幸いで御座います。


1)続・記念館様からの回答(ご希望により抜粋編集)

前回お問い合わせした中で、大佛次郎記念館様(ご希望により当方で抜粋・編集済)、吉井勇記念館様 から回答を頂きました。

 大佛次郎記念館様
 当館所蔵の文藝春秋を調べてみたところ、昭和四年のものについては雑誌に各作家の図案が掲載されていることを確認できました。図案は各作家の作品に因んでおり、どれも素敵で面白いものです。初めて知った企画でした。このような機会を頂き有難うございます。

 吉井勇記念館
 残念ですが、吉井勇記念館収蔵資料には、現物及び浴衣のデザインに関する 資料は現存致しません。 服飾に関連する文化施設や図書館のレファレンスサービスなど、文学館以外に 範囲を広げてお探しになるのも一つの手段かと存じます(既にアプローチを始め ていらっしゃるかもしれませんが)。
取組については、SNSで拝見しております。広告ページの画像に 吉井の名前が見られましたので、当館への問い合わせもあるのではと予想して おりました。


 他、問い合わせした中でも手掛かりが得られなかった記念館様からも、前回のnoteを見てくださり興味深く見たとのお声を頂きました。突然の問い合わせのメールで驚かれたかと思いますが、丁寧に対応して下さり本当に感謝しております。

「認識されてるぞ私達」
「まあ、それはそう」
「でも、見てくださって待って下さっているところもあるってすごいことですよね」

 本当に、見守ってくださっている各施設の皆様、改めまして、本当に有難うございます。
 感謝と共に、それに見合うだけの成果を得られるよう一同頑張って参りますので、これからも何卒宜しくお願い致します。


2)昭和四年八月号及び昭和五年八月号について


浴衣文藝春秋


 さて。前回取り寄せた文藝春秋が手元に届きました。
 勿論昔の雑誌で読み込まれていたとわかる傷み方はしていましたが、読むには差し支えない状態だったのは助かりました。それぞれ、華浴衣についての広告等があるか、確認をしていきたく思います。

●昭和四年八月号
『浴衣が飛んでいく。と云ったら驚くでせうが、文壇の華浴衣の売行きは、全く飛ぶやうな売行きです。どうしてでせう?』

note華浴衣昭和四年01

 華浴衣を着た栗島すみ子の写真と共に添えられた謳い文句。
 着ているのは彼女が出演している映画の作品でもある菊池寛の『受難華』です。

 考案者の一覧となります。錚々たる面々ですね……。

浴衣文藝春秋広告

 販売額は『一反二円四十八銭』
 当時の物価をざっと見てみると、昭和五年の白米(標準価格10㎏)が2円30銭、とのことなので一反が米10㎏をちょい越えるのか……と考えると相応なお値段だったように思います。
 昭和五年八月号は文字広告のみ。こちらは前回の昭和五年七月号と同じもののようです。


3)昭和四年六月号及び昭和五年六月号華浴衣図案他報告


 さて。今回は昭和四年に関しては図案のみ入手が可能でした。もう少し詳細の調査をしたく思いますが、まずは図案を見ることに。

浴衣昭和四年01

 【考案者・浴衣名・キャッチコピー・地色の種類一覧】一部《》書きで出典予測有り

※調査側での推測です。ご了承下さいませ。また情報や情報訂正はコメント及びTwitterのDM(@kohuku3112)等でお教え頂ければ幸いです。
※一部、旧漢字を置き換えている部分があります。変換等で出ないもの、読みにくいものに関しては置き換えておりますことご了承くださいませ。

●泉鏡花
1・2.不知火(同名柄違い)「波静かに不知火こそは涼しけれ」/1.納戸地 2.鼠色
3.瓜「瓜の花と蟷螂と! おゝ、何と云う涼しさだらう」/納戸地
●長谷川時雨
4.雨の足 「夏の日を雨足の地を打つこゝろよさ!」/納戸地
5.チューリップ 「麗人の心にも似たる、小さき美しき花よ!」/納戸地
●徳田秋声
6.天の河 「天津乙女の涙流すか天の河」/浅黄地
7.梅雨晴 「梅雨晴の草ふめば草いきれ哉‥秋聲」/納戸地
《『梅雨ばれの草踏めば草いきれ哉』徳田秋声全集第二十七巻より確認》
●岡本綺堂
8.雨國の秋(戯曲から) 「夏は雨國の柳の影から動いてきた」/納戸地
《大正五年の著書》
9.新朝顔日記(戯曲から) 「大井川秋立つ頃の涼しさよ」/浅黄地・納戸地
《大正九年『朝顔集』収録。大正七年に『新朝顔日記』上演》
●岡本一平
10.三頭首 「政界は鬱陶しいが浴衣は案外涼しい」/白地に納戸(男向き)
11.木の芽時 「百鳥の聲する頃のさわやかさ」/納戸地
●岡本かの子
12.劇場の廊下 「紳士と淑女と夜の風はいと涼し」/納戸地
13.櫻の賽 「薄桃色の五月の風よ! 吹け彼女等へ」/納戸地
●大佛次郎
14.赤穂浪士(読物より) 「影檜の人物は誰か! 聞くもうれし」/納戸地
《初版・昭和三年~昭和四年に改造社より》
15.海の隼(読物より) 「船は走るよ! 帆掛けて走るよ!」/納戸地
《昭和三年連載開始した海洋冒険小説『ごろつき舟』を昭和四年より本タイトルに改題》
●加藤武雄
16.夜曲(小説から) 「カフェーの嘆きに夏の夜は更けぬ」/浅黄地・納戸地
《大正十四年新潮社出版小説タイトル》
17.狂想曲(小説から) 「戀か黄金か人の世の狂はしさ」/納戸地
《大正2年実業之日本社出版小説タイトル》
●吉井勇
18.鎌倉模様 「犀月夜昔の跡をしのびつゝ」/納戸地
19.おもひで 「夏ゆきぬ目にかなしくも残れるは君がしめたる麻の葉の帯」/納戸地
《同俳句あり。元句は『夏雪ぬ~』》
●吉田紘二郎
20.水邊楊柳 「静かに! 静かに! 柳は動く」/浅黄地
21.雨におもだか 「靑、緑、天地はたゝ゛一色となった」/白地に納戸
●中村武羅夫
22.夜の潮(小説から) 「水鳥の眠れる邊り涼味湧く」/納戸地
《大正十四年第日本雄弁会出版小説タイトル》
23.蒼白き薔薇(小説から) 「彼女の心は青白い花と化した」/納戸地白上がり
《昭和四年新潮社出版小説タイトル》
●長田幹彦
24.緑衣の聖母(小説から) 「鐘は鳴る! われ等今宵の祈りを捧げん」/納戸地

浴衣昭和四年02

25.雲の柱 「あゝ、何と云ふ壮観だらう」/浅黄地・納戸地
●宇野千代
26.月夜のたより 「君よりのたより待つ身のかなしけれ」/浅黄地・納戸地
《昭和四年、文藝春秋から出版した同タイトルの本か(要確認)》
27.系圖 「彼女とわれと、君と彼れと、そして後より來る者と」/納戸地
●野口雨情
28.柳に涼風 「水は笑った。何と云って笑った。」/納戸地
29.海波 「波はうねつた。しぶきが飛んだ」/浅黄地・納戸地
●久米正雄
30.天と地(小説から) 「天にも地にも人の世の悩みはあつた。」/浅黄地・納戸地
《大正十四~十五年、婦女界で連載していた小説》
31.靜夜(小説から) 「雪に眠れる靜かなる村よ。」/納戸地
●久保田万次郎
32.葛の葉 「うらみせてさびしき葛のこゝろかな」/浅黄地
33.露あかり 「淸冷、楚々として心は動く」/納戸地
●山本有三
34.波(小説から) 「人の世は波の如く、君の心も波の如し」/納戸地
《大正十二年、朝日新聞にて連載》
35・36.赤トンボ 「親子揃って赤トンボ」/35.納戸地、36.浅黄地・濃納戸
●里見弴
37.山ノ手暮色(小説から)「暮れていく山ノ手のいと淋しけれ」/浅黄地・納戸地
《昭和四年・初版春陽堂》
38.今年竹(小説から)「わが心、いと悲しくも伸びゆくよ」/納戸地
《昭和四年・初版プラトン社》
●西條八十
39.銀座 「電車は動く、自動車は走る、舗道にも夏は來た」/納戸地
40.詩箋「何と云ふ淸新な感じだらう。まるで詩を着るやうだ」/納戸地(男向き)
41.君遲し「君戀し!などて餘りに遲からん」/納戸地
●菊池寛
42.受難華(小説から) 「彼女らの心は小車の如く、運命よいづこに!」/浅黄地
《初出大正十四年の同名小説。大正十五年映画化、主演は栗島すみ子》
43.東京行進曲(小説から) 「時は進む。愛慾の嘆きを乗せて」/納戸地
《昭和三年から連載した小説タイトル。昭和四年、無声映画化。同名の主題歌有り》
44.結婚二重奏(小説から) 「心と心と、かなでゆくよ戀の曲!」/納戸地
《昭和三年『新珠 結婚二重奏・第二の接吻』新潮社初版、『結婚二重奏』昭和五年平凡社・改造社初版確認》
●三上於菟吉
45.夕立 「何という警抜! あゝ胸がすく」/納戸地
46.寶石 「近代人のもてる 觸感!」/浅黄地・納戸地
●三宅やす子
47.二つの運命線 「永遠に彼と彼女は會はなかつた」/浅黄地
48.奔流 「わが心奔流の如く踊るよ!」/浅黄地・納戸地
●宮崎燁子
49.七夕 「君が魂祭りせん今宵一夜を」/浅黄地・納戸地
50.千鳥 「その頃は星も氷りて寒げなり」/納戸地


3-2)昭和五年六月号華浴衣図案他報告


浴衣昭和五年01


●西条(西條)八十
1.愛して頂戴な 「 ひと目見たとき 好きになったのよ なにがなんだか わからないのよ ねぇ ねぇ 愛して頂戴ね (愛して頂戴ねの歌詞)」/新浅黄色
《昭和4年の同名映画の主題歌作詞》
●中村武羅夫
2.王冠 「 住まばやな 夏の宮居(みやな)に君と二人 勝利の冠共にかぶりて」/納戸地
《昭和7年に発売された長篇三人全集(新潮社)に王冠の名前がある。昭和5~7の作品集か》
●吉屋信子
3.文化住宅の朝顔 「 夕ぐれのそぞろ歩き 君が姿をかいま見えとて 寄り添ひし垣根に夕顔の花白し」/鳩羽色
●鶴見祐輔
4.母 「 大地にしっかり根張き樟の木の如く」/納戸地
《政治家。 昭和4年大日本雄弁会講談社》
●大佛次郎
5.照る日くもる日 「 流るる水にうつるは 君が面影 清らかに さわやかに うつくしく。」/納戸地
《大正15年にマキノプロダクション等で映画化。 大正15年から昭和2年まで大阪朝日新聞連載》
●宇野千代
6.街の灯 「 『ネェ、貴方。散歩しませうよ』銀座の舗道戀の巷(※異体字)も風涼し」/新浅黄色
●吉井勇
7.白孔雀 「 うつくしさ清さわが世のものならず 白き孔雀の君とたたへむ」/納戸地
《昭和5年九条武子の遺稿による歌集「白孔雀」より。吉井勇編》
●佐藤春夫
8.銀河 「 天津女の會ふ夜なりせば、われもまた きみとあはなん星美しき夜を」/納戸地
●菊池寛
9.心の日月 「 あかき日、青き日、君とわが心の日 うれしきはこころの日 君よ召せ この戀衣 (こいごろも)」/納戸地
《映画化作品》
●久保田万次郎
10.青嵐 「 青あらし とぶ矢のかげも 濃かりけり」/鳩羽色
●久米正雄
11.蛍草 「 乙女子の心にも優しき蛍草 もゆる思ひを朝な朝なひらく。」/納戸地
《大正7年の時事新報連載作品》
●吉田絃二郎
12.夏の川 「 夕べあつさに 来てみれば 夏の河 鵜は泳ぐ 小風そよそよ 鵜は躍る」/納戸地
●犬養健
13.新議会 「 夕立の晴れたる如く 審議会よ、爽やかに、靜かなれ。」/納戸地
●片岡鐵兵(鉄平)
14.生ける人形 「尖る端を行く人に着せたきはこの衣 新しき世の姿うつして」/新浅黄色
《昭和3年初出。昭和四年に映画化》
●野口雨情
15.波浮の港 「磯の鵜の鳥や 日暮れにやかへる 波浮の港にや 夕やけ小やけ あすの日和は ヤレホンニサなぎるやら (波浮の港の歌詞)」/納戸地《大正12年発表の詩。昭和3年にレコード化》

浴衣昭和五年02


●横光利一
16.実 「朝露の 中に茄子もぐ 菜園の 浴衣着の人 すがすがしけれ」/納戸地
●徳田秋声
17.薔薇 「はらはらと 薔薇こほるる 月夜哉」/新浅黄色
《「はら〵と 薔薇にこほるゝ 月夜かな」明治34年11月10日「俳藪」春鐘吟社》
●ささきふさ
18.ある断層 「見せたきは わが心なり二つにも 三つにも さきて 君に見せたし」/納戸地
●菊池寛
19.新恋愛全集 「心と心と ふれ合ふ 花火 君が情の姿てらすよ!」/納戸地《昭和4年10月21日~昭和5年2月2日まで「国民新聞」で連載された長編小説が、名前の由来と思われる。(大西良生著「菊池寛の世界」参照、全集未収録)》
●岸田国士
20.由利旗江 「白百合にも似しその姿あでやかに 明るく和やかに美し」/新浅黄色
●里見弴
21.暗に開く窓 「賑やかに明るく強く、おお、それは われわれに希望と愛を齎す(もたらす)」/納戸地
《昭和四年連載小説。元題名は『闇に開く窓』》
●泉鏡花
22.里けしき 「立秋のなを残暑きびしきまゝに ひえ蒔きの鉢など窓際に出して眺めつ。いと心地よき夕暮れなりき」/納戸地
●宮崎燁子
23.月夜 「ともしひを消してまねきし月のかげ ひとりし居るにおもひてのよき」/鳩羽色
●直木三十五
24.人生の幸福 「芸術と、愛と、光と、希望を・・・・・・・・ 花の如装ひし君の姿に幸あれ。」/納戸地
《昭和五年連載小説『南国太平記』内にある一節をモチーフにしたか》
●加藤武雄
25.春遠からず 「 春がくる。處女の如き春が! 望みと輝きと、平和と誇りとを秘めて春がくる。」/納戸地
●三宅やす子
26.テープ 「君が想ひのせて遥けき波路ゆく 永久に切れすな君が想ひよ」/納戸地
●岡本綺堂
27.牡丹灯篭 「妖光のかげにひそめる幻影はなぞ 戀か、情か、幸福か!」/新浅黄色
●長谷川時雨 
28.真 「 烏は白鳥の中にあつても烏である。眞と愛とは如何なるところにありても 光りかゞやく。」/納戸地
● 三上於菟吉
29.見果てぬ夢 「面影のしかと見かわす夢醒めて きみが想ひの つのりけるかも」/納戸地
●川端康成
30.浅草紅団 「 観衆の渦の中 ジャズの音もうかれて 夏の夜の 更けくるも知らず 浴衣着て 躍るよ」/新浅黄色
《昭和五年映画化作品》
●佐々木茂索
31.光 「 光りを追ふて巷(※異体字)に つとめ終わりし人々の つかれし身を家庭に 陶然とうま酒に酔ふ時 あぁ、浴衣こそうれしけれ」/納戸地
●近藤経一
32.地上の星 「 天上の星 地上の君の 戀に泣く 涙澑り(したたり) 美しの この流れ 人々よ! 來り浴せよ」/納戸地

note華浴衣昭和五年09

こちらは昭和五年六月号図案ページ後にあった広告。価格は昨年より若干お安いようですね。そうか……(カレンダーを見る)もう販売してますね……(今の話ではありません、落ち着きましょう)(着席)


4)推しの浴衣の殺傷力が高い件について


 今回の浴衣、想像以上に凝った内容で調査メンバー一同、控え目に申し上げて興奮したのは言うまでもありません。デザインに関してもコンセプトに沿ったものが多く、今の時代に着ても良いくらいの良図案です。浴衣だけでなく、洋服や雑貨などにも活かせそう。
 デザインを一部紐解いてみることにしましょう。
 筆者の好みで申し訳ないのですが、推しなので此方をひとつ。

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直木浴衣柄


 昭和五年図案・直木三十五図案・24.人生の幸福より。
 随分とこの時代の柄としてはハイカラな印象。文字が入っているので抜き出してみました。

*art(芸術/英語)
*bonheur(幸福/フランス語)

 お。
 お洒落だ……!
 推しの浴衣にフランス語が入ってる……!
 当時の文士達は芸能人的なポジションでもありましたし(織田作之助の妻・織田昭子『マダム』にて、直木三十五にそわそわする若かりし昭子さんを見ることが出来ます)これはかなりの殺傷力なのでは?(個人的感想です)(もし当時これを見たら私も召されると思う)
 他にも、昭和五年図案・徳田秋声の16.薔薇、辺りも「自分は地味だから華やかなものを好む」と言って薔薇、ピンクなどを好んだという小話を訊くと、一層味わい深いものがあります。
 昭和四年図案・加藤武雄の16.夜曲や、昭和五年図案・川端康成の30.浅草紅団などで見られる浴衣の柄としては珍しいであろう音符柄や、昭和四年図案・岡本一平の10.三頭首のような風刺系のものなど、個性的な柄も多くみられるのも特徴でしょうか。菊池寛の図案は恋愛モチーフ作品が使われているせいか、昭和四・五年共にハートモチーフの異なるデザインであることも興味深いところです。
 今も昔も、お気に入りとのコラボ商品に財布を手にする気持ちは変わらないものだな、としみじみした次第です。いや、普通に欲しいんですけど。葉書出せば今でも見本を送って頂けるんですかね……?(無理)



5)強欲新展開


 さて、実は当初のひとまずの目的、というのはこの図案入手でした。
 しかし、ここで新たなる欲求が提示されます。

「現物を見てみたいと、思いませんか?」

 そりゃそうだ。あれば見てみたいし、望むならば再現して着てみたい、とも思う。
 今の世の中、記念館はやむなく休館を選ばざる得ないし展示会も延期せざる得ないけども、それでもいつかの展示会でこの華浴衣(本物ならば勿論嬉しいが、再現した浴衣でも可)が、並ぶ光景を見たい。

「それなら、いけるところまで行っちゃおうか」

 という一致意見の元、各自調査、問い合わせを続行することに。
 そして、とある回答を頂くこととなります。


 古物取扱関係者様より(匿名にて掲載了解を頂けました。有難うございます)
Q.取り扱うアンティークの「浴衣」で、一番古い時代はいつ頃でしょうか?
A.明治です。大正や、昭和初期も扱います。

Q.「文壇の華浴衣」を見かけたことはありますか?
A.当時の出版社のコラボものはたまに見ますが、どれも古典柄のため、気づかず販売しているかもしれません 。現存の可能性はあります 。ハギレや、手拭いになっている可能性もあります。

*生地の種類 = 制作工場であって、生地=制作している土地というわけではありません。
*生地帳を調べてみると良いかもしれません。
*もしかしたら作家の親戚筋や、出版社の関係者さんが、所有している可能性もあります。


「……現物の可能性が、ある、ということですかこれは」
「戦争もあったし、望み薄なのではと思ってはいたんですが、可能性があるなら」

 これは、追いかけるしかないのでは……?
 一同、可能性に掛けて更に華浴衣を追いかけることとなりました。
 其の参では、実りのある更なるご報告をお届け出来ますように、頑張って参ります!

 ※追記※

昭和五年度図録の菊池寛19.新恋愛全集の出典の情報提供頂きました。

菊池寛記念館様有難うございます!(本当にお世話になってばかりで圧倒的感謝です……!)


宜しければサポートお願い致します。 サポートは調査活動等に使わせて頂きたく思います。