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【短歌連作】多情仏心


絵馬の海うづもれそうになりながらつぶやく あなたと風になりたい

さすらひの夜風の髪を撫づべきを菊うつろひてつれなかりをり

暮れたれど茜さしたる山の端も恋しかるらむ帰らざる君

さんざめく光粒子が飛びまわる 過去の私に屈折よあれ

けぶりてもゆきぬる君にみ柳も袖を振りたり春の曙

袖振りて君が思ふは我もがないかにもなれやみ社の鈴

遠つ人松はいかにもすごけれど東雲にこそ逢ひ連ならめ

私たち一人一人はシャボン玉 いつか死ぬのは生きているから

今もまた夢と知りてか月影は黙して我にただ添ひてけり

打ち寄せる波の白さに雪を見て、いつかの来世水になりたい

つま先に雲を感じた青春はすすけた空に弾けていった

韻律に梅も風をも酔いどれて聞き流していた川の旋律

お神楽の舞は数式めいてをり夜闇の前のそれ、走馬灯

青い海どこまでもゆく青い海 ぼくを許した母のぬくもり

黒南風になり損ねました、わたくしは十八歳の橋から飛びます

綱渡り終えずふざけて最後で落ちて それこそピエロ、我こそピエロ

ざくろの実がぼくに食べられてしまったから首吊りの木はぼくを食べるよ

ひさかたの雲吹き流れ小夜更けてながめふる日はまた流れたり

髪くくりセロ弾く君を知ってるか 訊かれてさぁとこぼす溜息

潮騒のホテルに君と二人きりシャワーから冷えた珊瑚の波

散ったんだ春の欠片が髪の上それを払って君、夏の人

碧眼に桜吹雪の満ち満ちて、我は日本の生みし子と知る

雨がえる歌っているのは懐かしい二億年前のあの時の歌

最後なのに黙々と散る言の葉を僕も黙ってカンバスに描く

君はいま野辺を吹きたる風なればな見かへりそかるる草葉を

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