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なぜ低単価で喘ぐ動画編集者が多いのか

どうも、動画制作とWebマーケ支援を個人事業と法人でやっている、しかたこうきです。

私のTwitterでも何度か触れたのですが、知人に「動画編集やってるけど、儲からない。低単価で長時間の編集をやっている」と、こぼす人が何人かいらっしゃいます。

私は10年以上動画制作に関わっていますし、デザインやWeb制作もやってきたので、なぜそういう状況に陥るのか、少し説明してみたいと思います。

なぜ低単価の案件しか受注できないのか

これには、3つの理由があると考えられます。

①高単価の案件を受注できるだけの品質・スキルが伴わないから
②そもそも予算のないクライアントと付き合っているから
③「動画編集」しかやらないから

この「動画編集やってるけど儲からない。低単価で長時間の編集をやっている」という人は共通して、制作歴3年未満のフリーランスの人たちです。中には、フリーランスから動画制作のキャリアをスタートさせた人もいます。

私から言わせてもらうと、はっきり言って「高単価」の案件は求められるクオリティもそれなりに高く、それに見合った品質の動画を制作できないと、そもそも受注できません。

頑張って作ったポートフォリオ動画も、低品質なものばかりで、クライアントからしてみると「あー、このぐらいの動画しか作れないんだな」って思われてしまう。

じゃあ「動画の品質って何よ?」って話なんですが、これは一朝一夕には語り尽くせないんですけど、

  • 基本的なカット編集の間合いやタイミング

  • しっかり画がわりしていて、退屈ではないか

  • 色調整はしっかりされているか

  • カメラが手ブレていないか

  • 1フレも黒味になるところはないか

  • 音や読みに違和感がないか

  • テロップやグラフィックはきちんとデザイン原則に則っているか

などなど、挙げ出したらキリがないですけど、そういうところが動画の品質だと言えます。

ただ、低単価で喘いでいる編集者さんの特徴として、これらの品質を全てクリアしている人は中々いないですね。

そして、一人でやっているから、フリーランスからいきなり編集者になったので、基礎的なことを教えてくれる人がいないから… などの理由で基礎的な品質が身に付いていない人が多い印象です。

もっとも、動画制作スクールに通ったり、オンラインサロンで勉強したりしている人もいると思います。そうやって自分で努力して制作品質を上げ、高単価の案件を受注できる人もいると思います。

ただ、やっぱりスクールやサロンっていうのは実案件ではないですし、実際のクライアントワークで求められる仕事の厳しさみたいなものは、お金を出して得られるものではないでしょう。

スクールでもサロンでも何でもいいのですが、出来る人は自分に足りないものは何か、それを得るにはどうしたらいいかを考えて実行できる人。そうならないと、動画制作の品質は「一人」では上げていけないと思います。

高単価の案件はどこに存在する?

あまり私自身は動画制作者で集まって情報交換することはしないのですが、稀なことに以前一度、自分たちの案件をこっそり見せ合いながら「これの単価はいくらですか?」みたいな話をする場がありました。

その時に「これは80万ぐらい、これは5本グロスで60万…」と答えたら「スゲー! 動画制作って夢ありますね!」みたいな反応されたり「しかたさんは、単価の高い仕事しかしないんですね!」みたいなことを言われたりしました。

その場にいたのは多くが、これから動画制作業界に入ろうと考えてた人だったのですが、既に業界で経験積んでいる人から見ても高単価、みたいに見えたようです。

しかし自分では80万も60万も大して高いとは思っておらず、まあ相場かな、以前よりは相場感も安くなってきたかな、というイメージでいるので、これを「単価高い!」と言っている人たちは、どんな仕事をどれぐらいの金額で請けてるのかな、と逆に不安になってしまいました。

後から色々聞いてみると

・中小企業のYouTube動画制作を月額契約で請けている
・YouTuberの編集の下請けをやっている

というような人たちでした。で、結局そういう感じの仕事をしている人たちが疲弊している状態なんだということもわかってきました。

中小企業のYouTube動画制作は稼げないのか?

では、こういう発想につながると思いますが、一概には言えません。しっかり高単価で受託できるケースもあリマス。

近年、YouTubeの隆盛に伴い、オウンドメディアの場として企業がYouTubeに注目し、あるいは既に注力している企業もたくさんあります。中小企業にもその流れはきていて、経営者の多くが、一度はYouTubeを使って自社のプロモーションや営業ツールとして使えないかと考えたことがあると思います。

当然、この流れに動画制作業界もキャッチアップしていて、多くの制作会社やフリーランスたちが、企業のYouTubeチャンネル制作支援をサービスとして行っています。(ちなみに、私もちょこっとお手伝いしていますので、ご興味ある方はお問い合わせください)

YouTubeチャンネル制作支援のサービス内容については各社まちまちですが、概ね「月◯十万円で◯本の動画を制作します。毎月MTGを行い、視聴解析と次月のコンテンツ制作方針を決めます」というサービスが基本となっています。(ちなみに、うちも同じシステムです)

このシステム、肝心なのは発注する側も制作する側も月あたりの金額と作れる本数がポイントになってくるのは、自明の理だと思います。

ちなみに、とある疲弊している動画制作者さん(フリーランスで動画制作を初めて歴2年)は、「月30万で10本」というノルマなのだそうです。しかも、1本の尺は10分前後

これを聞いて、私は「結構キツいな」と思いました。その人の動画の品質はそこまで悪くはないものの、ズバ抜けて良いわけでもないので、経歴的にも高単価を狙うのは少々キツいかもしれません。

しかし、毎月10本10分前後の動画を生産するって、結構しんどいです。内容はその方の身バレ防止のためにも伏せますが、撮影に2~3日はかかりそうです。で、10分の動画が10本。編集だけで1~2日/本欲しいところですね。

よく使うテロップ等はテンプレ化できるので、ルーチン化すれば編集時間も短縮できると思います。ただ、企画を考えて、顧客と折衝したりっていうのは中々短縮できないので、10分10本の動画を毎月生産せよと言われたら、私の肌感覚では月の2/3は消費されてしまいそうです。

私が請ける場合、YouTubeチャンネル制作支援は「月60万円〜」に設定しています。本数は要相談ですが、10本10分の動画を作ろうと思うと「月100万〜」っていう感じになると思います。

その方はまだ若いということもあり「月30万ももらえるの?」みたいな感覚で最初は始めたということでしたが、正直それは「工数計算の見積りが甘すぎる」と思いました。

一方で、私のケースでも実績はあるのですが「月60万円〜」を、ぽんっと払ってくれる中小企業さんもいらっしゃいます。

月60万以上を払える企業と、月30万円しか払えない企業の差とは何か?

一言で言えば、その会社が儲かってるか儲かってないのかの違いです。もう少し詳しく言えば、業界によって利益構造は違います。儲かる、利益率の高い業界とそうでない業界とがあります。

例えば、医療系やIT系は利益率の高い業界です。反面、飲食業などは利益率が低い。給与水準を見ても、その差は歴然だと思います。

その月30万で10分10本を制作する契約をした人のクライアントは、業界でいうと製造業で、toCの手工業的な業種です。

当然ですが、サービス業に比べれば製造業は利益率が薄くなりますし、toCのビジネスは単価が小さく、それが手工業的な業種だと、スケールしづらくなります。

一方で、私がお手伝いした月60万の予算を承認してくださった企業は、toCですがD2C企業で、ネット通販を早くから始めていて全国に顧客がいる業態です。商品の単価も高く、従業員さんも結構な人数がいらっしゃいます。

無い袖は振れない、と言う言葉があります。要は、お金持ってない人(企業)は、下請けやパートナーに対しても高い予算を出せないんです。

ぶっちゃけて言えば、付き合う企業の見極めが大切です。こういうと「客を値踏みするのか」と、将来顧客のみなさんからは怒られそうですが、そう言うことではなく、我々が制作する成果物に対し、高すぎず、安すぎもしない、正当な対価を払ってもらえる。そういうお客様としかお付き合いできません、ってことです。

低単価で喘いでいる人たちは、このポイントが理解できていなくて、契約相手であるクライアントの選定を見誤っているケースが多い傾向にあります。

あと、副次的なことですが、安い予算しか用意できない企業や人物ほど、発注時の注文や、初校提出後の修正に難癖をつけたり、イチャモンみたいなことを言ってくるケースが多いです。

これは動画制作に限らず、Web制作や他のビジネスでも同じ。安いクライアントと付き合うと、金額以上に手間や時間が取られて、余計に疲弊するというスパイラルが待ち受けています…

動画編集しかできないと、動画編集の仕事しか来ない

当たり前のことなんですが、当たり前のこと過ぎて認識できてない人が多いみたいなので、改めて説明しておきます。

動画や映像の制作は、大きく分けて3フェーズあります。YouTubeチャンネルが絡んでくると、4フェーズ。以下の通りです。

  1. 企画(何の動画を作るか考え、企画書や絵コンテに起こす)

  2. 撮影・収録(ロケやスタジオで、動画の素材を作る)

  3. 編集(カットを繋ぎ、エフェクトや音効、ナレーションを入れる)

  4. 運用改善(解析結果から、次の動画を良くしていくPDCAを回す)

単に動画を作って納品するだけなら3まで、YouTubeチャンネルを継続的に回していくなら4まで含まれます。

一方で、世の中で「動画編集者になってフリーランスになるぞ or 副業するぞ!」みたいな人は、大体3のスキルしか持っていないことが多いです。

それもそのはず、3の部分は参入障壁が低いからです。パソコンとAdobe CCの契約をし、最低限Premiere Proの基本操作が分かっていれば出来てしまいます。

しかし、それでは3の部分しか仕事ができません。先ほど、単価80万と言いましたが、それは1~3のフェーズ全てを担当しての値段です。編集だけを外注に出すとしたら、せいぜい10万~15万ぐらいでしょうか。

副業だったらそれでもいいかもしれませんが、編集だけで暮らそうと思うと、そういう編集案件を月に何本も何本も受注しないといけません。

まあ、実際大量に編集案件を抱えて何とか暮らしている、って人もいると思うので、うまくリピートを数本束ねれば毎月暮らしていけるかもしれません。でも、それがいつまで続くかというリスクはありますし、何かやらかしたらリピート終了、みたいなこともありえます。

そういう意味でも、動画編集だけ、を受託の柱にしてしまうと、どうしても単価は上げづらく、顧客への依存度が高まりがちです。

動画編集だけだと、下請け仕事しか来ない

動画編集が好きなので、動画編集しかしたくない、って人もいると思います。でも、フリーランスや制作会社としては、あまり構造としては旨味がないです。

なぜかというと、一般の企業(事業会社)は、動画を作るとなると、通常は「企画から任せられる企業やフリーランスに依頼する」からです。「企画も撮影も社内でやるから、編集だけやってね」みたいな企業はありません。(今後増えるかもですが、まあ当分先の話でしょう)

普通の企業は、動画制作の専門家はいません。自社に専門家がいないから外の会社やフリーランスに発注するわけです。その際、企画が作れないと、当然撮影も編集もできませんから、企画が作れる企業やフリーランスに発注することになります。

通常の制作会社はディレクターが所属していて企画が作れるわけですが、フリーランスの場合、企画からできる人と、撮影・編集しかできない人だと、当然受注できる仕事の幅が狭まります。

厳しい現実を突きつけますが、撮影・編集しかできない人は、必然と下請けの仕事しかできません。

下請けの仕事=悪とは言いません。言いませんが、下請けは当然利幅が狭まりますし、元請けの都合に左右されることも多く、下請けばかりやっているとしんどいね、っていうのがどこの業界でも常識です。

動画編集で低単価に喘いでいるのなら、企画から受注できるようにスキルを高めて、案件単位で高単価にするのもステップアップの一つだと思います。

YouTuberの下請け編集なんかが一番最悪

かなり挑発的な見出しにしてしまいましたが、私はYouTuberの編集案件は一度もやったことがありません。

YouTuberと言っても知名度の高い人から「誰それ?」みたいな人まで様々です。

多くのYouTuberは、当然最初のうちは無名ですし、再生回数もありません。ですから自分で撮影・編集をしてアップしていきます。それが続けていくうちに収益が上がるようになります。

収益が上がるようになると、撮影や編集を外注しようとします。このこと自体は別に他のビジネスでもあり得る話ですし、悪いことではありません。

しかし、YouTubeの収益は、最初にドカンと大きく入るわけではないので、最初の外注費用は非常に安いものとなります。

よく見かけるのは、クラウドソーシング(Lancersとかクラウドワークスとか)で、YouTube動画編集1件3000円みたいな案件です。撮影した動画を支給するので

  1. 全編ジャンプカット

  2. 全編フルテロップ

  3. 効果音・BGM

これを行って、10分の動画に仕上げてください、みたいな案件ですね。

正直、金額的にも見合わないし、作業内容も1日以上かかる作業だと思うので、動画制作の実績を積みたい、という人以外やらない仕事だと思います。

というか、実績になるのでしょうか? というのが私の本音です。ジャンプカットも、フルテロップも、YouTuber案件以外ではまず使わない手法です。

結局、素人さんがダラダラ喋っているのを、何とか間を持たせて見られるようにする苦し紛れの演出手法なので、例えば企業紹介動画の案件でそんな動画を作ってしまうと、一発でクレームがきます(もちろん、そういう動画に仕上げて欲しいというオーダーならOKです)。

そんな動画を低単価で大量に作っても、結局はYouTuber動画の体の良い下請け編集者としてしか扱われないため、YouTuber案件しか請けられない負のスパイラルに陥るのです。

それでも、YouTuber案件が好きだ! ジャンプカットでフルテロップ楽しい! って人は、低単価で下請けするのではなく、そのノウハウを自分でYouTubeチャンネルを作って動画公開した方が、よっぽど稼げると思いますよ…

最後に

というわけで、低単価で苦しむ動画編集者とその傾向や理由について説明してきました。

実際のところ、これらはツカミの段階でしかなく、案件の単価をあげていく考え方や取り組みってのは、もっと深いものがあります。

機会があれば、深いところも語っていきたいところですが、まずはこんなところで。

大事なのは、

  1. 無い袖振れないクライアントではなく、有る袖を振ってくれるクライアントと付き合うこと

  2. 動画編集ではなく、企画から携われる動画制作者になること

  3. スキルの身につかない低単価案件は請けないこと(YouTuber案件など)

ここが、高単価案件を獲得する意識の持ち方の第一歩かな、と思います。

低単価編集案件から脱出したい人は、ぜひ意識して取り組んでみてください!


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