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すてきなあの子|夏ピリカ

 肌の色が違う。目の大きさが違う。それを縁取るまつ毛の多さや長さが違う。鼻も唇も輪郭も、とにかく全部が違って、彼女はとても可愛くて、私はそうじゃなかった。

 ゆきちゃんから誕生日プレゼントで貰った手鏡は、お姫様が使うみたいに可愛い形をした有名なデパコスブランドのものだった。

「加奈ちゃんに似合うと思って」

 ゆきちゃんは可愛い顔でにっこりと笑った。私が喜ぶと信じて疑わない顔だった。ゆきちゃんの瞳はキラキラとして見えた。長くて黒い髪はさらさらのつやつやで、私はこの天然美少女が羨ましくて、よく見惚れてた。

 学校はメイク禁止だった。だけど、自然のままにしている子は一部だけで、だいたいの子が何かしらメイクをしていた。ネットや雑誌に可愛くなる方法はたくさん溢れていて、私はお小遣いで少しずつコスメを買い集めた。最初は上手にできなかったメイクも、いろいろと試して練習している内に上達していった。

 でも、リップクリームをささっと塗っただけのゆきちゃんの方が、私の何十倍も可愛かった。遺伝子って、本当に残酷だ。

 女の子の憧れとか、可愛くなりたい気持ちとか、そういうものを具現化したような手鏡は、ゆきちゃんの方が似合うに違いなかった。お礼を言ったけど、うれしい気持ちと同じくらい、もやもやした気持ちが胸の中に広がって、私は心まで可愛くないんだなと思った。

 ゆきちゃんのくれた手鏡はいつも「可愛いの象徴」みたいな姿をしていて、その中に映る私は全然釣り合っていなかった。

「加奈ちゃんがその鏡でリップ塗ってると、可愛いの塊みたい」

 ゆきちゃんの言葉に、胸の内側がざらりとした。

「私ね、加奈ちゃんがメイクしているところを見るのが好きなんだ。魔法みたいなんだもん」
「元がアレで結構変わるから?」

 言った後、今のは卑屈っぽかったと自分を恥じた。こんなの、反応に困るに決まってる。

「加奈ちゃんは存在自体が可愛いよ。自分に似合うものをちゃんと知ってて、素敵だなっていつも思ってるの」

 ゆきちゃんは秘密を打ち明けたように恥ずかしそうにしている。それから、「実はね」とあることを教えてくれた。

「この前、加奈ちゃんみたいになりたくてドラッグストアで同じリップを試してみたんだけど、すんごく似合わなくて、くちびるおばけになって焦っちゃった」

 メイクって難しいね、とゆきちゃんは眉を下げた。私はゆきちゃんの顔と自分が手に持っているリップを交互に見て、いくら天然美少女のゆきちゃんでも、すっぴんにこのフューシャピンクは浮いてしまうだろうなと思った。

「ゆきちゃん、今日、うち来る?」

 私は頭の中に、ゆきちゃんに似合いそうなメイクを巡らせた。

「うちだったら化粧品たくさんあるし、動画見ながらメイクの練習できるよ」
「行く!」

 ゆきちゃんは即答して、とても嬉しそうに笑った。私は天然美少女の眩しすぎる笑顔にドキドキしながら、放課後が待ち遠しくなった。


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