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読書ノート|恩田陸『spring』

恩田陸さんが描く天才の物語が好きだー!!

『spring』の帯には一言

「俺は世界を戦慄せしめているか?」

これは絶対戦慄せしめてるやつ…!
『蜜蜂と遠雷』や『チョコレートコスモス』を読んだ時も、すごい能力とセンスを持った天才たちの頭の中や彼らが見ている世界を少しだけ覗かせてもらっているような体験ができて、すごく心を動かされたのを覚えていたから、今回はどんな天才が出てくるのだろうとわくわくしながら読み始めた。

『spring』はバレエの天才、萬春の物語。
萬が苗字、春が名前。
「人間にはせいぜい百の春しか訪れないのに、ヤツはその名に一万もの春を持っている」
と言われているように、一万の春を迎えるぐらい、普通の人よりずっと多くのものを見て経験するのだろうということが名前からも伝わってくるように思える。

天才の近くにいる別の天才、天才を育てた人、天才と一緒に新たな作品を作る人、そして本人が彼について語る。
ものすごい才能を持って生まれてきたのは間違いないけど、それを見つける人、育てる人、認める人が周りにいて、自分でもさらに才能を育てることで天才は天才になるんだな。
バレエの練習だけではなく、馬に乗った経験、叔父の家で読んだ本、仲間との会話、彼の人生全てが彼が生み出す表現につながっていく。
天才=孤独のイメージがひっくり返された。

天才同士のやり取りを覗き見るのもすごく楽しい。
私が一番好きだったのが「Ⅲ湧き出す」
春と組んで作品を作る作曲家の七瀬視点。
作りたいもののアイデアがどんどん湧いて、それを実現できると信じることができて、実際に形にしていく。
自分と相手の能力に期待し合って、最高の芸術作品を一緒に生み出すのはどれだけ大変で、エネルギーが必要で、それでいてどんなに楽しいことなんだろう。
高みを目指し続けることの激しさと美しさに心を掴まれて、目が離せなかった。

バレエって、スタイルのいい綺麗な人が優雅に踊っているやつでしょ、と思っていた。物語に沿っているものがあったり、こんなに音楽と深い関係があるなんて。

ほとんどバレエを知らなかった私でも、登場人物たちが踊っている景色が見えた。舞台で流れている音楽が聴こえてきた。場面によって空気が次々と変わるのを感じ取ることができて、読み終えた後、彼らが踊っているのを実際に見たわけではないし、見ることもできないということがしばらく信じられなかった。

バレエの舞台を見てみたくなった。
春たちに出てきて踊ってほしい。私も観客になりたい。空気に触れたい。驚かされたい。

本の左下についている、ダンサーが踊っているパラパラ漫画も素敵だった。

最近心が震えるものに出会ってないな、という人におすすめしたい一冊。

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