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読書ノート|『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』川本直

アメリカで大人気だったジュリアン・バトラーという作家。そんなジュリアンと生涯を共にしたジョージ・ジョンという人物が書いた回想録が『ジュリアン・バトラーの真実の生涯』です。

この小説の何がすごいかというと、全部フィクションということ!!ジョージの目を通して、ジュリアンという人間の人生が事細かに書かれていて、実在しないということを忘れそうになる。というか忘れる。「ジュリアン・バトラー」っていうWikipediaのページを見たことがあるような気にすらなってくるんですよね…

ジュリアンはとても美しい男性で、女装をして街を歩き、綺麗でいるために牛乳風呂に浸かる。飲み歩いたり男の子と遊んだり旅に出たり、まさに自由奔放という感じの人。「僕かわいいでしょ?」とか言っちゃう。回想録からでも伝わる大物オーラがすごい。そんな彼と生涯を共にするジョージは、真面目だし、緻密に計画を立てて作業をする、ジュリアンと真逆と言ってもいいような性格の人。そんな2人がなぜ出会ったのか?どういう関係?という疑問は読み進めるうちにだんだん明かされていきます。

ジョージとジュリアンは一生の大部分を共に過ごします。その中では一緒に住んだり、体の関係を持ったりということもするのですが、ジョージは恋愛ではないと言っているんです。わかりやすい愛情表現は確かに全然ない。ただジュリアンはこんな人です、こんな出来事がありました、と淡々と記されているのに、それでも読んでいると、お互い大好きじゃないか!!っていうのがなぜか伝わってくるような気がするんですよね。普通人のためにそこまでする?ということもできてしまう。嫉妬して依存してけんかして仲直りして。ラブラブじゃねえか!と思ってしまうけど、やっぱりそれに同性愛という名前をつけるのもとてももったいないと思うような、誰も完璧に理解することはできない彼らだけの特別な関係がどこまでも細かく描かれていて、小説の続きが気になるというより、2人の人生はどこに辿り着くのかを最後まで見届けたいという思いで読んでいました。ジュリアンのことが書かれているけど、ジョージの物語でもあって、2人分の人生を覗き見たみたいな、本を一冊読んだだけとは思えない感覚がしばらくずっしり心の中に残っています。

分厚いし、舞台は日本じゃないし、社会の様子も物語の中でどんどん移り変わるし、世界史知ってたらもっと楽しめるかもという部分もあります。それでもなぜかすいすい読める不思議な1冊でした。まとまった時間が取れる時に読むのがおすすめ。

本の最後の最後まで作り上げられていて驚きました。


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