岩首の龍の背に乗って
麓の停留所でバスを降りると、
そこが竜の背の入口だった。
大きくうねりながら遥か上まで続く一本道を歩き始める。
皐月の陽の光を浴びて、
アスファルトが柔らかな白銀色に煌めいている。
岩首昇竜棚田。
急峻な地形を活かしきる大小の変形田が、
天空に昇る竜のようにつながっていることからその名が付けられた。
中腹に差し掛かった頃、
背後から海風が肩をたたいた。
振り返ると、眼下に広がる日本海が、
仰向けで気持ち良さそうに揺れながら、
静かに寝息を立てている。
下からきた一台の車が私を追い抜いていく。
後部座席の窓から柴犬が顔を出し、じっとこちらを見ていた。
頂上に近づくにつれ、
田んぼにちらほらと人の姿が見られるようになってきた。
佐渡の田植えの季節だ。
海を見渡す山肌で、田に稲を植える人々。
その形容し難い神々しさに、
思わずレンズを向ける。
こちらに気付いて照れくさそうにしながらも、
凛とした笑顔を向けてくれた。
田んぼの水面に春の雲が浮いている。
また、海風が吹いた。
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