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【小説】世界一の嘘つき 〜去勢 〜 No.3

俺は、ぶつけようの無い苛立ちを
ずっと抱えていた。

仲間たちに対して、
結果の出せていない人間が
きちんと教える事が出来ているのか。

「No.1を取る」といった手前、
思ったように結果の振るわない日々。

小学生の頃の幼なじみ。
中高のクラスメイト。
大学の友達、サークル仲間。
SNSを通じて募集した事もあった。

だが、断られた。
断られ続けた。

だからこそ、

「一緒にやりたい!」と言ってくれた仲間たちが

「ありがとう!」
「なるほど!」
「まじで助かる!」
 
と言ってくれている。
 
その信頼に、どうしても応えたい。

俺は、とにかく足掻いた。

だが、その日は突然に訪れた。

「俺、もういいや」

彼、“Kくん”とでも呼ぼうか。

俺が1番信頼して、
MLMの定例会後にカフェで共に勉強し、
運用実績も中々良かった彼。

そんなKくんが、
参加して半年で「やめる」と
言い出したのだ。

俺は、頭が真っ白になった。

「やめる…って?どうして?」

「いや、ちょっとね…」

「あんなに『人生変えるんだ!』と
意気込んで始めたのに、もう諦めるの?」

「いや、そうじゃない。
親に『MLMやってるの!?』ってバレて…
親を心配させる事はできない。」

親の心配…?

自分も両親には黙ってやっていたが、
バレたとしても辞める気は一切無かった。

俺は思っていた事を、
そのまま、単刀直入に言ってしまった。

「Kの人生だろ?親にこうしろ、ここに就職しろと言われ続けて、そのレールに乗るのが嫌なんじゃなかったのか!?
 
このままお前は“親の人生”で生き続けるのか?
俺はまっぴらゴメンだ。
 
お前はどうしたいんだ!?」

Kは黙った。
下を向き、ボソボソと何かをつぶやく。

数分、お互いに沈黙。

この時間ほど、今までの中で
辛いと思った事はなかった。

そうして、Kが口を開いた。

「…わかった。だけど、このままじゃいけない。
きちんと、自分の想いを親に伝えてみる。」

「わかった。答えを待ってるよ。」

そうして、俺らは各々帰路についた。

この時俺は、
たかを括っていたのだろう。

「あいつが辞めるわけがない。」
ー そもそも俺はNo.1を取る。
   そんな俺から離れる訳がない。

もはや、根拠の無い自信。
むしろ、空っぽの身体で口だけが威勢良い。

そうして、Kからの返信を待っていた。

あんな事になるとはつゆ知らず。

…続く

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