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23. LUNDY ISLAND 9 PUFFIN STAMP

四月に出た講談社文芸文庫の平出隆「葉書でドナルド・エヴァンズに」を買って、自分にしては珍しく二ヶ月近く経つ今もまだ夢中になっている。
その布石はいくつかあり、まず去年の九月に「THE WORLD OF DONALD EVANS」が古本屋のSNSで紹介されているのを目にして、平出隆関連で名前は目にしたことがあったものの、こういう作品なのかと初めて知り、それほど高い値段でもなかったので購入した。後から調べると買った白い表紙の方は常に出回っているものでもないらしく、良いタイミングで手に取ることができたのだと知った。
そしてその二ヶ月後、浜松町にある横田茂ギャラリーで、日本では約二十五年ぶりとなるドナルド・エヴァンズの展示があることをこれもSNSで知り、時間をつくって行った。作品集で眺めていたものが目の前にあらわれ、その存在感に圧倒されてより興味を持ち、それと同時に、件の「葉書でドナルド・エヴァンズに」が講談社文芸文庫に入ることをそれもまたSNSで知り、発売を今か今かと待っていた。つくづく自分の興味関心はSNSによって支えられている。
作品社から2001年に出ていたその本については、それまであまり意識することはなかったが、何度か目にしているはずだったので、その後悔の念もありつつ発売を待ち、確か発売日に、仕事が忙しく昼間に書店に寄れず、またコロナの騒ぎで書店も営業時間を短縮するなかで、ここならあるかなと思い、銀座の教文館に閉店間際に駆け込み、果たして面出しされていたその文庫本を手に取ることができた。
四月中は仕事の忙しさにかまけて、なかなか本腰を入れて読むことができていなかったが、ゴールデンウィークに入り、じっくりと読みながら、その関連する本を調べていった。その中でも一番酔狂だったのがこのランディ島の切手で、もう本じゃなくてもいいのかと思わなくもないが、古本屋や古本市にも葉書やポスター、原稿など本でない紙物も売られているので、古本気分で買っていけないこともないだろうと思い、手に入れた。
本を読んでいるなかで、終わりの方に出てくるランディ島のシーンは印象的で、とりわけ、パフィンという島独自の通貨単位で、島から最寄りのイギリス本土の港までのためだけに発行されている切手は、まさしくドナルド・エヴァンズの架空の切手のようで、とても魅力的に感じた。ふと今でも発行されているのだろうか、どこかで取り扱っていないだろうかと思い、「ランディ島 切手」と調べたところ、ヤフーオークションで二点、別の出品者から出ていた。一枚目に試しに入札したところ、自分の想定する金額を入れても、自動入札で上回ってしまったため、結構ニーズがあるんだなと思い身を引いたが、二枚目にも想定金額を入れておいたところ、こちらは想定を下回る金額で落札することができた。要するにタイミングなのだろう。タイミングといえば、その後にも何度か同じように検索しているがそれからは出てこないので、同時に二枚出ていたのはどういう偶然だったのだろうと不思議に思う。
ランディ島の切手についてインターネットで調べたところ、これまでに発行された切手が網羅されているサイトがあり(http://www.acsc-history.info/lundy.aspx)、それによると、1929年に1パフィンとその半分の二種類が、その翌年1930年にもう三種類が発行され、手にしたものは1953年と発行年はだいぶ下るけれど、絵柄としてはこの中の一種類となる。現行品は別の絵柄となっているため、趣きとしては、初版ではないけれど元版の再版という感じがして何となくうれしい。
そうやって切手を買ってみたり、この本が雑誌連載時とはずいぶん違っているということを知って、ポーラから出ていた季刊誌「is」の掲載されていた号をまとめて買ったりして、続いている縦穴を掘り進めていたが、横穴も掘ることができないかと、ふと、本に出てきた澁澤龍彦を辿ってみようと思った。平出隆がドナルド・エヴァンズを澁澤龍彦に説明した際の反応が柔らかく、今まで抱いていたイメージと違う感じがして興味が湧いた。
そんな状態である日古本屋に行くと、ユリイカの澁澤龍彦特集号が目に付き手に取ってみると、それは没後二十年に合わせた号で、ちょうど平出隆も文章を寄せていたので、縁を感じて購入した。その中には、澁澤龍彦の手紙に焦点を当てたページもあり、晶文社から出た堀内誠一との書簡集である「旅の仲間」にも触れられていた。堀内誠一は前から著作を集めている一人で、その本は気になっていたものの買わずにいたが、やっとここで線が繋がった想いがした。
そのように、ドナルド・エヴァンズの作品集を買ってから間もなくして、それぞれ約二十五年ぶりの展示と復刊に巡り合い、六十八年前の切手を買いつつ、今まで通って来なかった澁澤龍彦から、好きだった堀内さんへと繋がっていくのは、古本を追っているとたまに起こる、ちょっとした奇跡のようだった。

#本 #古本 #平出隆 #ドナルド・エヴァンズ #澁澤龍彦 #堀内誠一

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