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角川文庫/片岡義男作品集

ここ半年ほどは、自分のなかの古本熱が一巡し、読むものが変わってきたため、買う本や残しておきたい本もそれに合わせて変わり、本棚を整理することが多くなった。本棚は文庫と単行本合わせて六百冊くらい入るが、前後で二重になっており、整理する度に手前の本を出して点検するためか、いつも新鮮な気持ちで棚の本に接し、持っている本とあらためて向き合うような気分になる。
それで今回、片岡義男さんの文庫本を触っていたところ、これまであまり気にして来なかった細かい点まで気になって調べることができたので、周知の点もあるが、自分の備忘録として、残しておきたい気持ちになった。

①白背
片岡さんの角川文庫からの記念すべき一冊目は1「ぼくはプレスリーが大好き」で、これと2「スターダスト・ハイウェイ」は石岡瑛子によるデザインで、背表紙もそれ以降のものとは異なっている。3「ロンサム・カウボーイ」から竹原宏による太い罫で囲まれた写真を上下に配した見慣れたデザインになるが、5「マーマレードの朝」まで元々は白い背に明朝体のスミ文字で、本表紙も淡い茶色の用紙にえんじ色の罫線が入った旧版のフォーマットになっている。6「アップル・サイダーと彼女」から晴れて赤色の背にゴシック体の白抜き文字になるが、はたしていつ変わったのか自分の持っているものから判断すると、「マーマレードの朝」が昭和54年10月刊の再版で、「アップル・サイダー〜」の初版が同年11月のため、ちょうどこの6冊目が出たタイミングから赤色になったものと思われる。

②13と14と16
そのように、角川文庫における片岡義男は、1「ぼくはプレスリーが大好き」で始まり85「狙撃者がいる」で終わる。その番号は基本的に刊行順になっているが、13「長距離ライダーの憂鬱」はカバー袖にあるように、65「きみを愛するトースト」のひとつ前に刊行されている。そのため、13はしばらく欠番になっていて後で発行されたことは知られているが、それぞれの袖や奥付を見ていくと、14「幸せは白いTシャツ」も順番通りではなく、30「ドライ・マティーニが口をきく」の後で発行されたことがわかる。こちらは何故かカバー袖には、番号順で並んでいるので気が付きにくく、また実は16はかつての13と同じく欠番になっていて、15「ときには星の下で眠る」の次は17「波乗りの島」になる。その当時、13と14と16には一体何があったのだろうか。何となく推測するに、その頃の片岡さんはバイクづいていたため、13から16をバイク物で企画したものの頓挫しバラバラと出て、ついに16は出なかったのではないかと考える。

③写真一枚のカバーデザイン
それに何故気が付いたのかというと、竹原宏によるカバーデザインの 3「ロンサム・カウボーイ」から27「ターザンが教えてくれた」には、31「一日じゅう空を見ていた」から54「タイプライターの追憶」まで続く、特にデザインクレジットの無い、石岡瑛子デザインのものとそっくりな写真一枚のカバーデザインの、いわゆる異装カバーが存在するが、それはいつから始まったのだろうと調べていたからだった。持っているものを調べていくと、袖に30「ドライ・マティーニが口をきく」まで印刷されているのが一番古いものだった。それで「ドライ・マティーニ〜」を手に取ると、そういえばこれと26「and I Love Her」28「Ten Years After」は、写真が一枚なのは同じだが、その写真が竹原宏デザインの際と同じように罫で囲まれているデザインになっており、微調整はあったものの、たしかにこの時期に写真一枚のデザインフォーマットが完成したと思われる。ちなみにその三冊にはカバーレイアウトとして成瀬始子という名前がクレジットされている。

④背文字のゴシック体と太明朝
白背のものが五冊あり、その五冊の重版も含めて赤色の背が最後まで続くが、65「きみを愛するトースト」までは背文字がゴシック体で、62「結婚しよう」から天地にある表示の変更と合わせて、背文字の書体も太明朝に変わっている。ちなみに何故「きみを愛するトースト」が65で次の「結婚しよう」が62なのかはわからない。とにかく、そうやって「結婚しよう」発行以降に重版されたタイトルもこの書体とフォーマットに変更されるわけだが、やはり片岡さんの角川文庫にはゴシック体が似合うと思うので、集める際にはこだわって変更される前のカバーで揃えた。

⑤99と98
角川映画が盛んだった際には角川文庫で多くのシナリオ本が刊行されている。その場合には一応、原作者の作品としてカウントされるが、本来の作品と区別する目的があったのか、99番から割り振られている。片岡さんもいくつか角川映画の原作となる作品を書いているため、それがシナリオ本となり、刊行順に99「シナリオ スローなブギにしてくれ」98「シナリオ メイン・テーマ」がある。最後となった「狙撃者がいる」は85で、先に述べた番号のダブりが無ければ89のため、あと8冊出ていれば、この98と番号が繋がる可能性もあったかと思うと面白い。

思い浮かぶのはこんなところだが、そうやって少しずつ集めていって、残すところは、
5 ママレードの朝
11 ボビーに首ったけ
15 ときには星の下で眠る
17 波乗りの島
18 いい旅をと誰もが言った
19 町からはじめて旅へ
20 友よ、また逢おう
この七冊の先に述べた写真一枚の異装カバーで、自分のなかでは揃うことになる。自分のなかでは、というのは、「きみを愛するトースト」以前のもので背文字が太明朝への変更分は集めなくて良いと思うからだ。ただ、この七冊のうち「ボビーに首ったけ」「町からはじめて旅へ」の他は、本当に写真一枚のカバーが存在しているのかは実は知らない。そうやって本当に存在するかわからない幻の一冊を求めているのが、一番楽しいのだろうと思う。

#本  #古本 #片岡義男 #角川文庫 #石岡瑛子

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