マーケティングって何なんですか?採用編

ノバセルの小林幸平です。
京都大学大学院卒 → LOREAL JAPAN Marketing → LOREAL Asia Head Quarter@上海 → Raksul Novasell
ノバセルを知らない方も多いと思いますが、要はマーケティングの民主化というビジョンの元、マーケティングに向き合っている会社でして、ざっくりそう覚えて頂ければ幸いです。

最近、スタートアップ界隈で「マーケターの採用がうまくいかない」というご相談を受けることがあり、自分自身が採用する上で意識していることをまとめてみました。ただし、マーケターといってもそのポジションは広く、ここにある要素の中でポジション毎に一部を抽出して採用要件としています。そういったお悩みの方の一助となれればと思います。

AGENDA
0. 結論(忙しい人はここだけみてください)
1. そもそもマーケティングって何?僕はマーケティングという言葉自体が嫌いです
2. 仕事を通して気付いた優秀なマーケターとそうでないマーケターの違い
3. マーケター採用の条件
0. 結論(忙しい人はここだけみてください)

マーケター採用の4条件
A. 右脳と左脳のバランス:賢く、そしてバカになれるか
B. 俯瞰と虫の目の両立:一人の顧客に向き合いながら、事業全体を見れるか
C. リーダーシップ:人を引き付ける魅力があるか
D. パッション:誰よりも熱くいられるか

1. そもそもマーケティングって何?僕はマーケティングという言葉自体が嫌いです

マーケティングの採用について考えるにあたり、そもそもマーケティングとは、を理解するところが第一歩です。
このトピックについて話し出すと長いため、また別で書きますが、日本におけるマーケティングという言葉の使われ方は非常にあいまいです。〇〇マーケターが多すぎる。いわばコンサルタントと同じで有象無象が混在しています。時には”webマーケター”という言葉を使ってweb運用ができる人材を意味したり、”マーケティングディレクター”と言われる、もはや何をやっているのか分からない言葉もあります。
かくいう私は新卒でロレアルに入社し、名刺に書かれたタイトルは”アソシエイトプロダクトマネージャー”というマーケティングポジションでした。何をやっていたかというと、5-10製品の売上をあげろ、という仕事でした。それに関わることすべてが守備範囲であり、Supply chainのメンバーと向こう半年間の需要予測と調達の議論をしたかと思えば、Financeと売上予測とMedia投資を決めてPLを作りながら、営業の先輩とRetailerに商談に行く。TVCMを打つときは広告代理店の方にオリエンしてこのCreativeはどうやらとコメントをする。そして3年間走り抜けた時、一つの懸念が頭をよぎりました。このままでは器用貧乏になってしまうと。あれもできる、これもできる、でも小林幸平しかできないことって何?と言われると言葉に詰まる。何の専門性があるかよくわからない自分に対して全く自信が持てない。まったくを持って頂いているお給料に値する仕事はできていない、申し訳ないと思いました。。。と、長くなるのでまた別の機会にしますが結論としてこんな経験を通して私が気付いたのは、マーケティングは都合の良いマジックワードであり、人によって解釈が大きくずれる言葉であるということです。そして、自分自身の言葉でマーケティングを表現するのであれば、マーケティングとは経営につながる道である。

2. 仕事を通して気付いた、優秀なマーケターとそうでないマーケターの違い

上で述べたようにマーケティング自体マジックワードなので、マーケターと呼ばれることが非常に嫌いなのですが、便宜的に説明上はこの言葉を使います。これまで日本超えてアジア13か国、大企業からスタートアップまで多くのマーケターを見てきた中で、パフォーマンスが高い層には一定の共通項があります。それはマーケティングの業務と強くリンクしています。
1. そのパッションを持ってリーダーシップをとれること≒自分自身では何も出来ないことを理解していること
マーケタ―の仕事は多岐に渡り、最終的には経営へと昇華されるため、自分ひとりで成し遂げられることはありません。そしてこれまでのキャリア形成も何か1セグメントに特化する経験をされている方は多くないと思います。ロレアルではこれをオーケストラの指揮者と表現していましたが、私もこの点については概ね賛成です。ただしここで重要になるのは、それが若くしてできるか?ということです。一定年齢やポジションを重ねると社会構造上、そのメンバーを率いるのはそこまで難しくない国です。ただしマーケターは20代であれ新卒であれ、このリーダーシップを発揮する必要があります。最近大学を卒業したばかりでまだオムツを履いていても、30-40代の大先輩の別ファンクションのチームに影響力を持たないといけない。まずはこの構造を理解できているか、そのうえでそれを動かせ得るのは最終的に事業への熱狂だと思います。オムツを履いていても、EXCELが使えなくても、誰よりもパッションを持ってその言葉を発せるか、これを無意識にでも、意識的にでもできるか、これはなかなか教えられない要素です。経験上、できない人に教えるのは非常に難しい領域であり、一種の才能です。ワンピースで言えば覇王色の覇気を持つ人を見つけられるか、ということです。一例ですが、セ品販売戦略の質は低いんだけど、製品への情熱と一個でも多く売りたいという愛が強く、それがセールスに伝わり、結果店頭露出を大きくとれた、みたいなことも起こりえますし、それはそれで素晴らしいマーケターなのだと思います。逆に戦略はかっこいいんだけれど、人を動かすことができない人は残念ながらマーケターは向いてないと思います。
また、決めることができる、のも非常に重要なリーダーの資質です。よく外資系のマーケティング領域では膨大なデータですべてが論理的に展開されている、と思われがちですが実際はそうではなく、論理で積み上げられるのは多くの場合せいぜい60%です。そのあとは腹をくくって意思決定できるかどうかで、日本人の多くはこれができない。その意思決定を間違えてしまったらどうしようや、まだ今は決めなくていいや、という判断をしがちです。マーケターがとるべきリーダーシップはいまそこで決めれるか、というのも重要であるということです。

2. 頭がいいんだけどバカな人、バカになれる人
これはいわば思考の横幅です。
よく大学の友人たちにマーケティングって難しそうだよね、覚えること多そう、と言われますが私はその逆でそこまで座学で学ぶことは多くない領域だと思っています。例えば3C分析というものがありますが、マーケティングの世界にはこの手の「当たり前のことを難しく言ってみた」ことが多く、これが悪い意味で仕事を小難しくしていると思ってます。せっかくなのでこの3C分析を例にとっても、普段の生活から実践してることです。これを恋愛に置き換えると、Consumerは恋愛対象になります。好きな人がどんな人で何が好きで、普段どんな行動をしているのか、一種のストーカー的思考ですが皆さんが声に出さずとも経験してきたことだと思います。Competitorはその人を巡って争っている相手のことであり、考えずともその好きな人がほかの異性と話しているとムムッ!と思うでしょうし、常に意識を配るでしょう。Companyは自分自身のことで、その人を落とすために自分自身の持っている武器を分析し、適用する。逆に弱みも理解しておかないといけない、そりゃそうでしょう。このようにマーケティングの思考は一見難しそうなことをいかに簡単にとらえるか、が重要であって必ずしも東大や京大の数学試験に必要なほどの脳みそが必要だとは全く思いません。むしろ逆で、一種の”マス力≒世の中一般的な考え方”を理解する能力が重要です。この側面においては、変に高い学歴が足を引っ張ることもありますし、そもそも東京など都会に住まれている方は一般的に生活水準が高く、世の中一般とはかけ離れているケースがほとんどです。
コンビニに行って、今日は仕事頑張ったからハーゲンダッツをドキドキしながら買おう。からあげ君が一個増量してる、お得!パーソナルジムって高いよね、それだったら毎日家の外ウォーキングしよう。
といった浮世離れしないこと、当たり前の心理を理解すること、する努力をすることは一般的に平均給与の高いマーケターが絶対意識しないといけないことです。余談ですが、良い意味で私の妻は非常にマスな人で、TVのドッキリ企画を見ると常に驚いてますし、スーパーも1円でも安いところに行こうとします。私の左脳はこれを見て「このドッキリ企画がやらせである何かがTVに映ってるかもしれないから探そう、この芸人のリアクション不自然だ」「歩くのめんどいからタクシーでスーパーいこう」と考えてしまうのですが、こうやって奥さんといつも喧嘩しながらも、世の中のあたりまえを常に意識させてもらっていて、プライベートに仕事を持つこむのは嫌ですが、非常に妻にマーケターの心構えを1年目に戻った気持ちで教えてもらっています。また、マーケティングは多くのアイディアを求められる仕事でもあり、そういった発想は多くの場合、論理性から生まれるわけではなく、右脳的な発想から生まれます。

一方で、マーケターはレイヤーを上げれば上げるほど、いわゆる”マーケティング領域”から染み出していく必要があります。最近多くの採用面談を通して様々な方とお話しさせて頂いておりますが、その90%が口を揃えておっしゃるのが「今の領域から上位のレイヤーにチャレンジしたい」です。例えばwebマーケをされている方だと、次は戦略立案もやってみたい、というのが多いように感じます。私の場合は、より人・組織を担う、もはや経営者をやりたいというのが強いです。このようにマーケターはより上位レイヤーに染み出すことになるため、広い領域や知識を身に着けておく必要があります。これにはいわゆる左脳的な論理性や頭のキレは一定必要だと感じます。

なので、この当たり前を当たり前にとらえる力(良い意味でバカになれる)と、それでいて冷静に物事を論理的にとらえる力のバランスが重要です。

3. 俯瞰する力と虫の目

これはいわゆる縦幅の能力です。
マーケティングの真ん中にあるのは顧客であり、顧客不在のマーケティングは必ず失敗します。時々顧客を見ずにうまくいくビジネスもあるように見えるのですが、恐らくは素晴らしい経営者がいつまでも心の底にお客様視点を忘れていないので、「マーケティングなんてやってません」といいながらも伸びていくビジネスがあるように見えるのだと思っています。
この顧客に向き合う、というのは虫の目な仕事で、どれだけズームインできるかが重要です。上記に書いたように一種のストーカーレベルで向き合います。前職のロレアルでも、年収20億円(公開されている範囲だけでも)のグローバルの社長でさえ消費者調査に参加し、誰よりも情熱的に顧客を知ろうと努力しています。
その一方で、マーケターは自分が書いている戦略(絵)が全体観として整合性があるか、トラブルはないかを誰よりも俯瞰してみる必要があります。
この片方が得意な人はまぁまぁいるのですが、この両方がスピード感を持って適切にできる人はなかなかいません。気づけばビジネスインパクトの小さい要素をこねくり回していた、みたいなことも起きます。
逆に俯瞰に走りすぎると、具体的なアクションに落ちない、競合と同じようなありきたりな示唆しか生まれません。

3. マーケター採用の条件

ということで、私はマーケターを採用するときに下記を重視してみています。
マーケター採用の4条件
A. 右脳と左脳のバランス:賢く、そしてバカになれるか
B. 俯瞰と虫の目の両立:一人の顧客に向き合いながら、事業全体を見れるか
C. リーダーシップ:人を引き付ける魅力があるか
D. パッション:誰よりも熱くいられるか

具体的にどう見極めているか、という点ですが、CやDは正直感覚です。しいて言えば、過去成し遂げてきたことを話していただき、その時にどれだけ熱がこもっているか、自分の言葉になっているか、を見ています。それをあえて心を無にして聞き、1人の人間としてついていきたくなったか、心を動かされたかで判断しているので超属人的です。笑
ただ、実際のビジネスの現場においてもこれは感覚的なものだと思うので、このようにその時の直感で見極めて良いかと思います。

AとBの要素については、候補者の方に最近気になった広告や製品を選んでいただき、それをベースにフリーディスカッションします。今持っている情報からどういった顧客を設定し、どういった戦略で販売するのかなどを議論します。勿論データがたくさんあるわけではないのですが、その中でどう仮説を置き、ストーリーを展開するのかや、あえてその意見を否定してみた時にどう打ち返すのか、また全体の戦略設計の穴を指摘したうえで、俯瞰し立ち戻る力(俯瞰ー虫の目の切り替えスピード)などを見ています。

この4条件のうち優先順位をあえてつけるとするのであれば、私は
優先順位1:パッション
これだけは教えられない、かつ教えられたとしても不自然なものになってしまうからです。賛否両論あると思いますが、パッションはどうしても欠かせず、自分自身についても仕事をする中でパッションを失いかけている瞬間は大きなアラートを自身に上げるようにしています。

優先順位2:右脳と左脳のバランス
これは現時点での能力も重要ですが、今苦手な側面を埋めようと努力しているかも重要です。例えば、ロレアルに入社したときの私は大学院でがちがちに左脳を鍛えられ、同時に感情を殺すことを教えられた殺戮左脳論理マシーンでした。が、ロレアルに入り、それだけではビジネスが回らないことを肌で感じ、右脳を育てました。それでもまだバランスは左に寄っている気がしますが、自分の中で意識するだけでも大きく変わるポイントだと信じています。逆にいえば脳の偏りがあることに対して課題感がない方にこれを伝えても響かないので、やはり本人の意思は重要です。

優先順位3:俯瞰と虫の目の両立
これは後天的に身に着けられると感じています。が、これも右脳と左脳のバランス同様、本人の意思が重要です。特に虫の目で顧客を理解しようするのは嫌う人が一定いるのを経験的に知っています。なので、その考え方があるのかをまずは見極めています。

と、つらつら述べてみましたが自分自身も修行の身であり、まだまだ見えていない次元が多くのあることを理解しています。皆さんが重要視していることもぜひ教えて頂ければ幸いです。それではここで。



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