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都市のマイクロバイオームとは?

ヒトにいる微生物 + 自然にいる微生物 = 都市のマイクロバイオーム

「そもそも都市/建造環境におけるマイクロバイオームってどんなものなの?」という質問を毎回頂くので、少しお話したいと思います。

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僕自身の都市環境微生物の研究や、多くの先行研究を通して、都市のマイクロバイオームを「ヒト由来の微生物」と「自然環境由来の微生物」の集合体だと思っています。

しかしながら、都市のマイクロバイオームにおいて自然環境由来の微生物がヒト由来の微生物よりかなり少なくなってしまっていて、多様性が低くバランスが取れていないのでは?という議論があります。

微生物の多様性が高まると、微生物同士の拮抗作用が働き、ヒト由来病原菌が増殖が抑制され、感染症拡大につながるリスクを低下させられると考えられています。

しかしながら、腸内細菌をはじめとして、体にいる微生物のバランスや多様性の重要性は理解されつつありますが、私たちが暮らしている都市のマイクロバイオームのバランスや多様性はこれまで、重要視されていませんでした。

放出される微生物の雲 "Personal microbial cloud"

ヒトには、38兆個もの微生物が共生していると言われています(1)。それらは、私たちの健康に大きな影響を及ぼしています。そのためマイクロバイオームは重要な個人情報ですし、アイデンティティとか、オーラとも言えるかもしれません。

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ヒトは1時間あたり約100万個もの微生物などのバイオエアロゾル粒子(直径0.5um以上)を放出しており、歩行時は、さらに5-6倍ほどの量が放出されます(2)。

個人から放出されるマイクロバイオームを「Personal microbial cloud(微生物の雲)」と呼び、この"雲"を調べることで個人の識別もできる場合もあります(3)。

都市には多くの人口が高密度に集積しているだけではなく、人々が絶え間なく移動しているため、放出される微生物量がとても多く、これが都市に堆積していきます。

自然環境由来の微生物は都市に足りているか?

その一方で、自然環境由来の微生物は、緑地や森、河川などの自然環境から風で運ばれて補給されます。

しかしながら、現在の都市では、土壌の上にはアスファルトが敷かれ、少量の樹木が道路に点々と立っているだけで、人口密度に対しての十分な微生物の補給ができていません。

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また気密性が高い室内は、外から自然環境由来の微生物が取り込まれづらかったり、高層ビルは機械換気のため、微生物が屋外から室内に入り込みません。

換気方法によって室内の微生物多様性と病原菌の割合に影響するとの研究結果もあります(4)。

病院の集中治療室(ICU)や都市部の宇宙船組立クリーンルーム施設まで、高気密で除菌が高頻度で行われている建造環境では、微生物の多様性が低く、逆に微生物の薬剤耐性機能が多様化してしまうことがわかっています(5)。これはつまり、抗生物質で死滅しない微生物をどんどん生み出してしまっているということです。

都市のマイクロバイオームを再野生化する "Microbiome rewilding"

室内のマイクロバイオームが換気によって左右されることを述べましたが、自然換気をすることで屋外である都市から多様な微生物を補給するわけなので、そもそも都市のマイクロバイオームが多様で健全でなかったら意味がなくなってしまいます。

しかしながら、大気汚染や排気ガス、騒音など様々な理由で窓を開けることができない状況も多いです。(僕たちがGreenAirというプロダクトを創っているのは、外界と接することなく室内でマイクロバイオームを整えるためですが、この話はまた今度にしましょう。)

そこで、しっかり植生が定着している緑地を都市に構築して微生物の補給源することで、微生物及び生物多様性を回復させて都市自体のマイクロバイオームを再野生化しようと提案する論文が出てきました(6)。
(僕がずっと考えていたこと、悩んでいたことの多くが見事に言語化されていて、この論文を見つけたときは最高に嬉しい気持ちでした。)

本来、マイクロバイオームも含めた生態系サービスを都市においてしっかりと構築することは、アレルギー性疾患の低減や感染症の拡大防止に寄与するため、直接的な人間の健康上の利益として公衆衛生・医療費のコストを下げる要因になると考えています。

またコスト削減のみならず、空気の浄化、ヒートアイランド現象の緩和、植物によるストレスの軽減、土壌の保水効果など多くの面で利益が生じるはずです。

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今後僕たちは、都市におけるデベロッパや建築家などのステークホルダーたちと実証実験を通してデータを集めながら、グリーンインフラ、建造物を微生物多様性のパラメータに考慮しながら設計・構築していき、微生物多様性を高めて都市のマイクロバイオームを再野生化していきたいと考えています。

ぜひ、「うちの施設で微生物サンプリングして微生物多様性について評価していいよ!」とか「共同研究してもいいよ!」、「都市/室内において、こんな事考えているんだけど、一緒にやらない?」というお誘いがあればご連絡ください!

参考文献

(1)Ron Sender et al. 2016 "Revised Estimates for the Number of Human and Bacteria Cells in the Body"

Here, we integrate the most up-to-date information on the number of human and bacterial cells in the body. We estimate the total number of bacteria in the 70 kg "reference man" to be 3.8*10^13.

(2) S. Bhangar et al. 2015 "Chamber bioaerosol study: human emissions of size‐resolved fluorescent biological aerosol particles"

Weighted mean ± standard deviation per person‐h emission rates for the index condition—occupants seated and floor exposed—during basic treatments was 0.9 ± 0.3 million coarse FBAP numbers, 1.6 ± 0.7 million total number of particles >5 μm, and 26 ± 5 gCO2 (Table 2).

(3)James F. Meadow et al. 2015 "Humans differ in their personal microbial cloud"

Occupants differ in their personal microbial cloud
In addition to our finding that occupants were detectable from their microbial contributions of bioaerosols and/or settled particles, bacterial assemblages were also unique to each of the three occupants, meaning that samples from each individual were statistically distinct and identifiable to that occupant (p = 0.001; from PERMANOVA on 4-hour air filters from each occupant; Fig. 1 and Table 1).

(4)Steven W Kembel et al. 2012 "Architectural design influences the diversity and structure of the built environment microbiome"

The relative abundance of potentially pathogenic bacteria [...] was higher in indoor air than in outdoor air (ANOVA; P<0.01).

(5)Alexander Mahnert et al. 2019 "Man-made microbial resistances in built environments"

CBs revealed a high abundance of sequences assigned to mainly human-associated bacteria, opportunistic pathogens, and only a low proportion of potentially beneficial bacteria (no potential pathogens; lower proportions of functions associated with virulence, defense, and resistance).

CB: controlled built environments (集中治療室、クリーンルームなど)

(6)Jacob G. Mills et al. 2019 "Relating Urban Biodiversity to Human Health With the ‘Holobiont’ Concept"

We suggest that restoration of urban microbial biodiversity and micro-ecological processes through microbiome rewilding can benefit holobiont health and aid in treating the urban non-communicable disease epidemic.

使わせていただいたカバー写真

Pedro Lastra (@peterlaster)
Willis Tower Skydeck, Chicago, United States


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微生物多様性で健康な都市を創る、株式会社BIOTA代表。慶應先端研 (SFC)で、バイオインフォ領域で複数論文投稿。Forbes 30UNDER30、TSG2020最優秀賞、SONY U24 CO-CHALLENGE2020準グランプリなど。https://biota.city