VANILLA対オイラ

近所のまっすぐな、とてもまっすぐな道を歩いていると、混雑した車道にひときわ大きな車があるのを発見した。

VANILLAである。

渋谷とかでよく見かける、やたら大音量で収入の高さを謳っているあれだ。

音こそ流れていなかったが、さして都会ではないうちの近所にVANILLAがいるなんて珍しい。出稼ぎ感覚で来てるんだろうか、とにかくレアである。車道の渋滞をよそに、歩道の私はそそくさとVANILLAを追い抜いた。よっしゃ勝った。

しかし人よりも車のほうが早いのは当たり前の話で、渋滞が解消すると私はあっという間にVANILLAに追い抜かれた。ちくしょう負けた。



悔しい気持ちのまましばらくまっすぐ歩いていると、前方にひときわ大きな車が見えてきた。

VANILLAである。

原宿とかでよく見かける、やたらテンポよく職場環境の良さを掲げているあれだ。

どうやら信号待ちをしているらしい。しめた。ここの車道は混みに混むのだ。一気に逆転のチャンス到来である。「勝ったら高収入、勝ったら高収入」という根拠もへったくれもないモチベーションを利用して私はVANILLAを再び追い抜いた。よっしゃ勝った。

しかし昼飯の牛丼を動力源とするものよりもガソリンを動力源とするもののほうが早いのは当たり前の話で、信号が青になると私はあっという間にVANILLAに追い抜かれた。ちくしょう負けた。



敗北の屈辱に涙しながらまっすぐ歩いていると、前方にひときわ大きな車が見えてきた。

VANILLAである。

代々木とかでよく見かける、やたら派手な塗装でメリットの一点張りをしているあれだ。

運転手のじいさんが降りてきて、公園のトイレで用を足しているようだ。明るく華やかな塗装の車から降りてきた人が、丸見えのきったないトイレに入っていく様子はなんとも哀れである。じいさんのトイレが長すぎて車が駐禁を切られてしまうんじゃないかなどと心配しつつ、私はVANILLAを三たび追い抜いた。よっしゃ勝った。

しかし父と母の遺伝子のみからできているものよりも自動車会社の皆様の血の滲む努力からできているもののほうが早いのは当たり前の話で、じじいの用が済むと私はあっという間にVANILLAに追い抜かれた。ちくしょう負けた。



いつか雪辱を晴らそうと心に誓いながらまっすぐ歩いていると、前方にひときわ大きな車が見えてきた。

VANILLAである。

信濃町とかでよく見かける、やたら子どもの好きそうなリズムで子供を対象としない宣伝を実施しているあれだ。




「いつまでやんだよこれ!!!!」


私は特大の捨て台詞を吐き、ちょっと通り過ぎちゃった目的地を目指して右に曲がった。

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