1月10日 初めての糸引き納豆【今日のものがたり】
みなさん、おはようございます。
今日は1月10日です。
なんと、こちらの世界にお世話になりはじめて3ヶ月がたとうとしています。
どうですか、僕、けっこう日本語うまくないですか。
僕は、こちらの世界でいうところの異世界からやってきたものなんです。びっくりしましたか? 僕もまさかこちらの世界で過ごすことになるなんて3ヶ月前は夢に見ていたくらいで、本当にそうなるとは思ってもいませんでした。
でも実は、異世界にいたころから日本語というのを独学で勉強していたのです。そしたら、たまたま日本語を使うこちらの世界に呼ばれたのです。僕を呼んだのは少し前に起きたばかりのしーちゃんさんです。
彼女はすごい力があるんです。そうです、僕をこちらの世界に呼べる力です。おとぎ話みたいですよね。でも、本当なんです。魔法使いなのかもしれません。
「おはようございます、しーちゃんさん」
「おはよう、ロンド」
ロンド、というのは僕の名前です。
「今日の朝食はなんでしょうか」
「今日は1月10日だから、これを食べてみようか」
しーちゃんさんは冷蔵庫から白い箱のようなものを取り出しました。
「はい。今日の食べ物はこれ」
「これ、ですか」
四角くてやはり白い箱です。あ、ふたがついているのかな? これを開けると……?
「これは茶色の……なんでしょうか」
「『納豆』と言います。1月10日は糸引き納豆の日でね、それに合わせてみた」
「いとひきなっとうのひ……」
しーちゃんさんは毎日なにかしらの日だと教えてくれるのですが、そうですか、今日は糸引き納豆の日でしたか。
「やわらかくてにおいもそんなにしないタイプの納豆だから、初めてでも食べられると思う」
「どのようにして食べるのですか」
「私も食べるから、私のまねして食べてみて」
「わかりました」
しーちゃんさんは箸を持ち(箸の持ち方は最初の1ヶ月でマスターいたしました。異世界にもにたような道具があるので助かりました)、茶色いものをそれでぐるぐるまわし始めました。
「こうすると糸が出てきてこの豆にからんで食べやすくなるし、私は美味しくなると思ってるんだ」
「ほう……それで糸引き納豆というのですね」
「そうだね。で、ある程度混ぜたら、あとはカラシとたれをお好みで」
「しーちゃんさんはどうするのですか」
「私は辛子もつけるし、たれもかけるよ」
「では僕もそうします。……そのまま食べるのですか」
「そうだよ。なんかね、あついご飯と一緒だと栄養素がダメになっちゃうらしいよ。それを聞いてから納豆だけで食べてる。あ、めかぶとかキムチとか混ぜたりもする」
しーちゃんさんは僕に日本語でどんどん話してくれるのですが、しーちゃんさんが話している言葉は不思議と聞き取れるんですよね。まるで、僕の母国語のように。こちらに来てまだ3ヶ月なのに。もしかしたら、それもまたしーちゃんさんの力なのかもしれません。僕をこちらへ呼べるくらいの力を持っているのですから。
「どうしたの? 食べないの?」
「いえ、食べます」
しーちゃんさんとの朝食は毎日発見があって楽しいです。今日は納豆というものを知ることができました。
果たして明日は、どんな新発見があるのでしょう。今からとても楽しみです。それでは……
「いただきます」
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