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8月1日 水の古代魔法を【今日のものがたり】

 城下の図書館、その地下に特殊な書物を扱う書庫がある。ここが私の職場だ。
 
「ねぇ、クローディア。水の魔法に関する書物ってないかしら」

 あるとき、一人だった書物庫に華が咲くような空気が生まれた。
 この国の姫様がここへお忍びでやってきたのだ。それから私は姫様とここでお話をするようになった。最初はすごく緊張していたけど今は姫様の優しさに心地よさを覚えて、会えることが本当に嬉しくて楽しみになっている。

「水の魔法、ですか。魔法書でしたらここではなく通常の図書館のほうが……」
「現代魔法じゃなくて、むかーしむかしの古代魔法とよばれるものを知りたいの」
「水の古代魔法……」

 確かに存在している、いや、存在していたと言ったほうが正しいかもしれない。古代とつくのはもう失われていることのほうが多いから。

「でも姫様、どうして水の古代魔法をお知りになりたいのですか」
「自分で使ってみたいからよ」
「姫様自身が使う……?」
「冗談、よ。びっくりした?」
「それはもう……はい」
「ふふ。クローディアは正直ね」

 古代魔法は魔法名の前に唱える威力をあげるための呪文から、古代語と呼ばれる難解な文字で記されている。ただ、それを解読できたとしても、きちんとその魔法を扱えるかはまた別の話になる。その人が持つ魔法力だったり、属性によっても効果が変わってくるからだ。

「最近読んだ物語にね、水の古代魔法が出てきたの。それがとっても格好良くって調べてみたくなったの」

「姫様、古代魔法を集めた魔法書はございます」
「なんてこと! 本当にあるの? 今すぐ見たいわ」

 姫様の瞳がきらきらと輝いたように見えて、私もなんだかワクワクしてしまう。初めてその魔法書を見たときは、多分眉間にしわが寄るくらい難しい本だったという記憶があるのだけど。

「こちらが古代魔法書です」

 ずしりと重みを感じる厚みのある書物。読み慣れない文字が表紙に書かれてある。

「表紙の文字も古代語なのかしら」
「古代語です。特殊な形で……文字というより絵みたいですよね」
「……そうね」
「どうかしましたか?」
「いいえ。中を見てみて良いかしら」
「どうぞ」

 姫様の表情が少し驚きというか困惑していえるように見えて、私は少しソワソワしてしまう。
 ゆっくりと書物を開き、指で文字をなぞっていく姫様。

「ひかりに……つどいし……」
「……姫様?」
 
(今のささやきは……)

 姫様の指が止まる。

「クローディア。私、この文字、読めるわ」
「……え?」
「なんて書いてあるか、わかるのよ」
「……本当ですか」
「おかしいわよね。でも、確かに読めるのよ」

 姫様の横から文字を眺めてみるけれど、私にはやはり“わかる”と言う感覚はない。でも、姫様はわかるとおっしゃられた。それは、つまり……

「姫様は古代魔法が使えるのでは……」
「私が古代魔法を……?」

 姫様の手がふるえ出す。
 もしかしたら、姫様自身ですらまだ知らない、大きな秘密を私たちは見つけてしまったのかもしれない。

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