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9月12日 水路工事に夢を乗せて【今日のものがたり】

「どうやら水路工事は順調のようだな」

 各地からの報告書を一通り確認し終えたご様子の魔王様がめずらしく笑みを見せた。

「気にかけておられたのですね」
「気にかけていない事業などない。どれも我が国にとっては大事なこと。どれだけ数が多かろうと私が報告書これに目を通さぬ日はなかろう?」
「仰せの通りでございます」

 やる気を見せずしてやる。気づいたらすべて終えられている。魔王様はそういうお人だ。ゆえに魔王様なのだ。

「水路が開けば夢も広がる」

 ――夢。
 
 魔王様からそのような言葉が発せられるとは。

「どうした、お主だけ時がとまったかのような顔になっているぞ」
「すみませぬ」
「謝ることはないが、魔王と呼ばれるものが夢を語るのは意外か」
「いえ、決してそのようなことは……」
「私は夢があるから魔王になったのだ。魔王になればできることが増える。幼き頃、できずに悔しい思いをしたことは数え切れぬほどある。それを一つ一つ実現させ、今、ここにいるのだ」

 魔王様のお言葉には淀みがない。揺らぎもない。このお方ならば魔界から世界を生まれ変わらせてしまうかもしれない。

 それを見届けるのが私の夢でございます。

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