8月8日　ベーグルとエプロン【今日のものがたり】

　私はエプロンをつけると今日が始まる気分になる。
　
　朝、ホットミルクを飲みながらインターネットの通販サイトで生地探しをするのが趣味のひとつになって久しい。可愛らしい生地が見つかったら注文してエプロンを作る。今日着ているのもそうだ。

「珠理（じゅり）ちゃん、おもしろい柄のエプロンだね」

　ダンナはそこに気づいてくれるいい人なのだ。まぁ、ダンナはイラストを描いてお金をもらっている人なので、こういったデザインや柄には敏感なのだと思う。

「なかなかいいでしょう、ベーグル柄の生地」

　ブルーベリーや抹茶、チョコといったベーグルのイラストがちりばめられた生地。ああ、これを見ていると食べたくなってくるなぁ、戸村ベーカリーのクリームチーズ入りベーグルサンド……。

「戸村ベーカリーのベーグルサンドを食べたくなるね」

　ダンナ、以心伝心じゃない！
　気が合うというのは良いことだ。うんうん。

「やっぱり小太郎（こたろう）くんもそう思うよね！　また注文しよっか。でも、頻繁に頼みすぎてあやしまれないかな」
「えー何をあやしむのさ。むしろ嬉しいと思うよ。離れた土地から注文があるなんて通販やって良かったって思ってくれているんじゃないかな」
「そうだと嬉しいな。あ、小太郎くん、今度、星川（ほしかわ）さんにもお裾分けしない？　彼、ベーグルは食べてくれそうな気がするんだよね」

　星川さんは私のあとを引き継いで山穂（やまほ）図書室で働き始めてくれた青年だ。実は心配なところがあるのだけど、彼は理由があって山穂へ来て、住むことを決めてくれたから私たち夫婦は信じている。

「いいね。向こうにいた頃、戸村ベーカリーのパンを食べていたかもしれないしね」
「よーし、じゃあいつもより多めに注文しちゃおっと」