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5月11日 ご当地キャラをポチっとしたら【今日のものがたり】

「戸村(とむら)くん、なに見てるの?」

 僕は昼食のラップサンド(もちろん里子(さとこ)さんの手作りだ)を頬張りながらパソコンで通販サイトを眺めていた。

「かわいいご当地キャラのグッズを見つけたんだ」
「ご当地キャラかぁ。でも、このあたりのキャラクターじゃないよね」
「うん。このキャラは僕が中学生の頃住んでいた地域のなんだよ」
「そうなんだ。表情が愛らしくてかわいいね」
「でしょ、でしょ! このぬいぐるみとかぽちっとしたくなっちゃって」
 おっと、思わず本音がでちゃった。これまでにも同じように話して買って良いよと言ってもらえてきたので、するすると言葉が出てしまうんだよね。

「ちゃんと大事にするならぽちっとしていいよ」
 ほら、里子さんはやさしいのだ。親が子どもに言うみたいな台詞に聞こえるけど、ものを大事にするのは大人でも子どもでも変わらないことなので、僕は「もちろん大事にします!」と答えて、さっそくぽちっと購入画面に進む。
「なんて、戸村くんがものを雑に扱うなんてことはないから心配はしていないけど」
 里子さんもそうだと僕は思っているよ。
 結局僕はキャラクターのぬいぐるみとタオルを2枚注文した。タオルは実用的だからね!

「ご当地キャラといえば、スーツアクターのアルバイトしてたころ、ご当地キャラにもなったことあるんだよね」
「戦隊キャラクターだけじゃなかったんだ」
 そう実は僕、学生の頃、スーツアクターのアルバイトをしていて、ショッピングモールのヒーローショーイベントに出ていたのだ。
「より身体を動かすほうがいいなって思ってアクション多いほうを希望したんだよね。それで、戦隊ものが増えていったって感じ」
「そうだったんだ」
「里子さんが見に来てくれたときはすっごく嬉しかったなぁ」
「すっごくびっくりしたけどね。まさか……って」
「でもでも、僕、結構すごかったでしょ」
「うん、すごかった。あのままアクション俳優目指すのもありだったんじゃない?」
「そうか。その道もないことはなかったか」
 里子さんに言われて今、気づいた。でも僕は……

「里子さんと一緒にパン屋さんをやりたかったからこっちの道で幸せです」
 里子さんがじっと僕のほうを見つめてくる。なんだ、なんだ。ちょっと、これは、なんだ。
「戸村くん、あの頃から変わってないね」
 ふふっと微笑んだ里子さんのまわりに花が咲いたように見えて、僕もつられて笑顔になる。
 僕が持っていたラップサンドを里子さんがつまんで頬張る。あ、と言う間もないほど自然な仕草で僕は見とれてしまった。

「わたしも幸せだよ」

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