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1月19日 いいくちになるために必要なモノ【今日のものがたり】

「血は苦手なのに、そういうところは気にするんだね」
「その枕詞いらないです」
「枕詞? 血は苦手なのに、ってところ?」
「そうです。統計を取ったら、血が得意という人より、苦手って人のほうが絶対多いと思うんですけどねぇ」
「『人』……『人間』はそうかもしれないけど」
「俺も『人』です」
「ぱっと見はね。でも、血がないと生きていけない──」
「あーまったくもう、吸血鬼には生きづらい世の中ですよ」
「そんな生きづらい吸血鬼のドリスコルが私の助手になるなんて、魔道具を作っていたあのころの自分に言っても笑われるだけだろうなぁ」
「まことにその節はお世話になりました! いや、今も現在進行形でお世話になっております、アーリン様!」
「様はつけないでよ。こそばゆい」
「でも、様をつけても感謝の気持ちをしめしきれないくらい、感謝しているので……」
「ドリスコルがおいしそうだったから飲んだモノがたまたま私の作った苺味の魔道具で……」
「それが、血の代わりとなるぐらい、吸血鬼にとっては至高の栄養源になりまして……」
「その魔道具の効力が認められて私は一人前の魔法使いになれたから、私だってドリスコルには感謝しているんだよ」
「では、もう一段階レベルアップするために新たな魔道具をお作りになりませんか?」
「……それが、『血を吸うときさわやか吐息になる』魔道具ってこと?」
「そうです! 歯はきれいにしていますし、もちろんそれに合わせて口臭というものにも気をつけてはいます。ですが、ここはひとつ、アーリン様の魔法力でいつ何時でもさわやか吐息になる魔道具を製造していただきたく」
「血が苦手で、滅多に人から血を吸わないドリスコルに必要なものなの?」
「滅多に吸わないからこそ、吸うときにとても重要なんです」
「……安くないよ?」
「わかっております。お金は貯めております」
「……わかった。その魔道具を作るために必要ものをリストアップするから一緒に買いに行こう」
「ありがとうございます、アーリン様!」
「……様って言わせない魔道具作ろうかな……」
「今なにか言いましたか?」
「ううん。新しい魔道具の名前どうしようかなって」
「それも一緒に考えていきましょう!」
「吸血鬼にあるまじきテンションの高さだね」
「世の中にはいろんな吸血鬼がいるのですよ」

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