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10月15日 布ぞうりと秋の空【今日のものがたり】

小太郎こたろうくん、見てみて、 じゃじゃーん」

 思った以上に可愛らしく仕上がったので、効果音まで自分でつけてダンナに見せてしまった。まぁ、いいか。

「布ぞうり! 珠理じゅりちゃん、相変わらず器用だね」
「ありがとう」
「その様子だと、1足だけじゃなくて何足も作ったね?」
「調子に乗っちゃって10足作っちゃった」
「10足?! それは僕の想像以上だったな」
「何足あっても困るものじゃないけど、使われないままなのも寂しいから、今度の“青空バザー”に出品しようかなって」
「それ、いいね!」

 私たちの住んでいる山穂やまほ村では春と秋に廃校になった学校のグラウンドでバザーを開いている。基本的にはナマモノ(野菜や果物はOK)以外なら何を出品しても大丈夫だ。

「問題はお天気よね……」
「珠理ちゃん、雨女だもんね」
「ここで、男女に晴れも雨も曇りもない! って力説できればいいんだけど……」

 悲しいかな、私は雨女なのだろうなぁと思うことがこれまでに多々あり……。迷信だとわかってはいても、そういうこともあるのかなぁって思うくらいには雨に降られている。

「それじゃあ、彼を誘ってみようか」
「彼?」
星川ほしかわだよ」
「星川さん? どうして?」
「僕ね、星川は晴男なんじゃないかと思っているんだよね」
「根拠があるのね」
「ある。まず、彼がここへやってきた日。あの日はすごく良い天気だった。それから、珠理ちゃんと一緒に司書の仕事をお願いした日。夏のラジオ体操のときも」
「……なるほど」

 ラジオ体操は晴れているから来てくれたのでは? と思わなくもなかったけど、確かに星川さんを見て雨をイメージすることはない。物静かではあるけど、そこには優しい日差しが寄り添っていて湿っぽさはない。

 ただ、その日差しを星川さん自身は気づいていないような、そんな感じがして私はときおり心配になる。それで、こっそり星川くんのいる図書室に行ってみたりするのだけど。

「でも、星川は自分のことを晴男とか考えたことはないんだろうなって思うよ。うまく言えないんだけど、日差しに気づいていないというか、わからないというか……」

 驚いた。ダンナも同じことを星川さんに感じていたなんて。
 でも、本当に、その優しい日差しに気づいてほしくて、私たちはひっそりこっそり見守っている。おせっかいにならないよう気をつけながら。

「星川にもその布ぞうりを薦めて図書室ではいてもらおうかな」
「それ、いいね! あ、でも、子供用に作っちゃってたから大人サイズで作らなきゃ」

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