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1月15日 半襟に思いを込めて【今日のものがたり】

 呉服屋「深町」。商店街の一角にその店はあります。
「ど れ に し よ う か な……」
 その店の奥、とある部屋の一室から呪文を唱えるような声が聞こえてきます。
「か み さ ま の い う……」
 そこへ、襖越しに声をかける者が現れました。
「七海(ななみ)ちゃん、迎えが来たよ」
 襖の向こう側で何やら物音がしました。
「えっ?! もう?」
 声をかけた者に姿は見えていませんが、バタバタ、という擬音がぴったりハマるような音です。
「今日は何に悩んでるんだ?」
「今日は、というか、今日もなんだけど……」
「半襟選びか」
 襖の奥が静かになりました。
「七生(ななお)くん、どうしてわかったの」
 いきなり開かれた襖から現れたの小柄な少女でした。そう、小柄な少女と表現してしまうくらい幼く見えます。
「あの、七海ちゃん。俺が弟だからいいと思っているのかもしれないが、ほぼ下着姿だぞ、今。せめてなにか羽織ってくれ」
「あ、ごめん」
 言われてそばにかけてあった着物を羽織るのは、七生の姉である七海です。
「着物に着替えていると思ったから襖は開けずにいたのに」
「ごめんね。でも、よくわかったね。私が着物に着替えていること」
 七生と七海では頭一個分以上の身長差があり、身体もひとまわり、いや、ふたまわりは違うように見えます。
「そりゃ、わかるよ。七海ちゃんは休みの日はいつも着物だから。俺もたまに着物着るし」
「そうだよ。七生くんももっと着物着ようよ。あ、今度、遥可(はるか)くんの着物を七生くんに選んで貰おうかな」
「その遥可とやらが迎えに来てるんだが」
「そうだった! えーと半襟は…」
「遥可は何色が好きなんだ?」
「遥可くんは……確か、青!」
「じゃ、青がメインのこの柄にしたら?」
「……七生くん、ありがとう! そうか、そういう選び方があったよね」
「彼氏をあんまり待たせるなよ。イメージ悪くなるぞ」
「……だよね。今度なにかで埋め合わせしないと」
 話しながらも、七生が選んでくれた半襟を器用に襦袢の襟につける七海です。
「七生くんは部活動?」
「いや、今日は親父たちの手伝い」
「力仕事があるんだね」
「そういうことだろうな」
「私たち双子なのに不思議だね」
「ま、なに考えているかはなんとなくわかるけどな」
 七生と七海が顔を見合わせます。
「『おみやげにおいしいお菓子買ってくるね』」
 見事なユニゾンです。
「ほらな」
「あはは! すごい、七生くん! ね まで合わせてくるなんて」
 そう、二人は見た目こそまったく違いますが、正真正銘の双子の姉弟なのです。これまでのやり取りで仲良きことはわかっていただけたかと思いますが、二人の話は今回はここまで。果たして次はどこでお目にかかれますでしょうか……。

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