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10月7日 それは私のミステリー記念日【今日のものがたり】


 私はかつてミステリー小説が苦手だった。
 読まずに苦手だとは言わない。一応読んでみてはいたのだ。
 でも、ほぼ毎回、“さあこの謎を解いてみろ”と課題を突きつけられているような気分になってしまう。
 そこで私が名探偵よろしく、こうこうこうだからこの謎はそういうことで解けるのだよ──なんて解明できたら苦手なんてことにはならなかっただろう。

 現実はかくも厳しく、私は謎が解けないことがほとんどだった。勝ち負けの問題ではないのかもしれないけど、私はそこですごい敗北感を味わい、ミステリー小説を遠ざけるようになった。

 とは言うものの、小説以外のテレビドラマだったり、映画だったり、アニメやマンガでミス
テリーものを見ないというわけではなかった。そして私はそれらを楽しんでもいた。
 そうして月日が流れたある日、私は一つの真実にたどり着いたのだ。

 別に私が謎を解かなくても、この物語のなかの探偵さんが解いてくれるじゃないか、と。

 そう、別に私がトリックをまったくわからなくても、ものの見事にだまされても困る人はどこにもいない。誰も私に謎を解けなどとは本当は言っていないのだ。それなのに私は、私が謎を解かなければいけないという、それこそ謎な考えに縛られていたのだ。

 大丈夫、この難解なトリックも、殺人事件の犯人も、きっちりしっかり解いてくれる人がいる。私はその人と、その人をとりまくほぼ全てを俯瞰で見届けることができるのだから。

 そのことに気づいたとき、私は謎を解いたかのような爽快感を覚えた。私はミステリー小説を読むことができる。楽しめる。良かった。世の中には数え切れないくらいたくさんのミステリー小説がある。私はもうずっと読むものに困らないだろう。

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