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10月16日 魔法は自分色に染めて【今日のものがたり】

 ロビンがこのところ魔法の練習を熱心にしている。学校から帰ってきてからやっているので魔力も減っているだろうに……。眠れば魔力も回復するけれど、それにしても……何かあったのかな。

「お姉ちゃんは復習しなくても魔法が使えるから」

 ロビン、それは買いかぶりだよ。私もこっそり復習はしているからね、こっそり。
 彼の表情が冴えないままなので、私も表情を引き締める。軽口でいいときとそれではいけないときを間違えてはいけない。

「魔法が思うように使えない?」

 ロビンがちらりとこちらを見て小さく頷く。

「なんかね、イメージがうまくできなくて。魔法名を唱える前に呪文の詠唱をするでしょ」
「うん」
「僕、それが実はあんまり好きじゃないんだ」

 魔法は呪文なしでも発動は可能だ。でも、魔法の威力を正しく発揮させるためにも呪文は唱えた方が良いとされている。だから学校ではこの呪文もちゃんと唱えるよう教わる。

「好きじゃなくても、唱えたほうが良いことをロビンはわかっている。投げ出さず練習しているだけでもロビンは偉いよ。好きじゃないことをやるって結構パワーを消耗するんだから」
「お姉ちゃんはどうやって呪文をうまく唱えているの?」
「ロビンから見て、私はうまく唱えているように見えてた?」
「見えてる」
「そっか。それは嬉しいな。ありがと」
「何かコツはあるの?」

 褒められると調子に乗ってしまうことをそれなりに自覚している私は、大きく一つ息を吸い込んでゆっくりと吐き出す。嬉しくても、今は羽目を外さないように。ここはしっかり、ロビンと話をしなくてはいけないところよ、ダリア。
 私はロビンにまっすぐ向き合う。

「魔法だけじゃなく、呪文も自分色に染めるってことかな」
「呪文を自分色に……。それってどういうこと?」
「ロビンも魔法名を唱えるときは自分が魔法使いとして“持っている色”とその魔法に合った色を混ぜ合わせるイメージをしているでしょ」
「うん。そうすることで自分と魔法の相性が良くなって魔法の威力もあがって、強い力が解き放たれるって教わったから」
「そう。でも、呪文を唱えているときって、色よりもその言葉の意味を考えることに思いが傾いてないかな」
「うん、傾いてる。だって、言葉の意味を知らないと呪文を唱える意味もなくなるって教わったから」
「ロビン、ちゃんと理解しているじゃない。すごいよ」
「そう、かな?」

 私がロビンくらいの頃は魔法を唱えるだけで楽しいって感じで呪文は二の次だったもの。自分の魔法使いとしての色というのもおぼろげだったし。
 
 今よりまだ、色が重要視されていなかったっていうのもあるのだけど……。魔法開発がこの近年すごく進んだからロビンみたいに幼い子供たちに求められるレベルもあがってしまってるんだよね……。
 
 魔法使いとして生きるのもなかなかに大変だ。

「お姉ちゃん?」
「ああ、ごめん、ごめん。それで……呪文を唱えるときから自分の色を強く意識して、そうして魔法を発動させるところにまで持っていく、というのがミソなんじゃないかなって」
「呪文を唱えるときはその言葉の意味と、自分の色、両方を考えるってこと?」
「そのとおり!」
「それ、めちゃくちゃ大変そう」
「ホント、大変だよね。だから、どちらか一つは自然にできるくらいになれば、魔法をもっとうまく使えるようになるんじゃないかな。私は自分色のイメージがそうなるようにしてる」

 そのために私はいつもほぼ必ず――

「……もしかして、お姉ちゃんが水色の服をよく着ているのはそのため?」
「ロビン、鋭いじゃないの。そ、すっごくわかりやすいでしょ?」
「わかりやすすぎる……」
「ふふ。でも、始めるのにハードルがあるものより、やってみようってすぐに思えるくらいのことのほうが試しやすいでしょ」
「それは、確かに……」

 学校ではなぜかこの、色を身につける方法はアドバイスされないのよね。当たり前すぎるのか、気休めだと思われているのか……私としてはなかなかにグッドなアイデアだと思っているのだけど。

「自分色の何かを身につけるって、簡単なことかもしれないけど、色があるとないとじゃけっこう違ってくるのよ。簡単にできることで良くなるのなら、やってみなきゃもったいないじゃない。少なくとも今よりマイナスになることはないのだから」
「そう、だよね……」
「ロビンもロビンの色である紫色の何かを身につけてみたらどうかな?」
「……うん、やってみる」

 大魔法使いさんみたいな説得力はないかもしれないけど、私なりのやり方は伝えられたかな。ロビンに話したことで、私も改めて魔法の勉強をがんばらなきゃって思えたし。ロビンのやる気に負けないよう、私もこっそりではなくしっかり復習してこれからに備えよう。

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